学生フォークロックの典型的一発屋

ザ・ダーツ

The Darts

 


 昭和元禄を彩ったアングラブームはムシ声のコミックソングということに集約されるが、もう一つの大流が「ケメ子」である。愛らしく素朴なラブソングに長閑な滑稽味で女性上位を歌い込んだ「ケメ子の歌」は幾多の歌手によって歌われ、松平ケメ子「私がケメ子よ」、滝しんじ「ケメ子がなんだい」というアンサー・ソングが作られたほか、「キナ子の歌」「ダブ子ちゃん」といった便乗ソングも現れ日本歌謡史上空前絶後のブームを巻き起こした。そのケメ子ブームのオリジネイターとも言えるのがこのダーツである。

 ザ・ダーツは京都・朱雀高校生によって結成されたウエスタンバンドであったが、昭和41年夏にメンバーを加えエレキ・バンド化。その年の秋には京都の音楽団体に所属、ワイルド・ワンズとの共演を果たし、これを契機にボーカルにも取り組むようになった。しかし外国曲のカバーはしっくりと来なかったらしく、自分たちでどうにでもアレンジ出来るということから、オリジナル「去りゆく君に」を作った。当時オリジナル曲のあるバンドは大変珍しかったので、これが評判となり、団体の花形バンドへのし上がった。42年10月にこの団体の別のバンドがやっていた「ケメ子の歌」を聞き、いわばネタ的にこれをレパートリーに取り入れた。ちょうどこの頃毎日放送に出演する機会があり、この曲を披露したところ大反響があり、「帰ってきたヨッパライ」の大旋風に乗ろうと関西のコミックフォークを探していたコロムビアの目に留まった。旬を逃してはならじ、と急遽レコーディング、臨時発売、平行してホリプロ系の事務所との契約が慌ただしく行われ、ビクターのジャイアンツとの相乗効果もあり、オリコン二位というグループサウンズでも屈指の大ヒットとなった。最終的には彼らのバージョンの方が圧倒的な売り上げになったが、これは彼らの素朴な学生バンドっぽさが受けたからと言われている。もっとも、この歌はあくまでも彼らにとっては「ネタ」であり、本来はかなりセンスのいいフォーク・ロックバンドであった。シングルB面やセカンドシングルでは正統派のフォークロックを披露したが、世間でのイメージと本人たちの方向性との間でかなり苦労があったものと思われる。結局セカンドシングルは轟沈し、一年を置いてメンバー変更しムードコーラスに手を出したサード・シングルを出したものの、これも売れず、ここで打ち止めとなってしまった。結果希にみる一発屋となってしまった。なお、当時彼らは立命館大学に在籍していたが、当時はフォークと左翼の学校だっただけに、初めてこれを聞いたとき、きわめて意外な感じがした。なお、「ケメ子の歌」は馬場祥弘が作詞作曲したものだが、彼は当時学生ながらマルチタレントとして活躍していた小森豪人のこと。また、ダーツに「ケメ子の歌」を教えたのはリトル・マギーの沢田好宏らしい。現在下京区で喫茶店を経営している浅井氏を中心としてダーツの再結成ライブが度々行われているが、よくこれに絡んでいる。

 このバンドはやはり根は学生フォークロックバンドであり、素朴で真摯なサウンドが屈託なく現れている曲にこそ彼らの真価が出ており、特に「ブーケをそえて」はGS史に残る名フォークロック曲だと思う。また、後期のムードコーラスものも妙に上手く、彼らの音楽的モチベーションの高さをよく感じることが出来る。その上で彼らの最大のヒット「ケメ子の歌」を聞くと、また別の見方が出来るであろう。


パーソネル

土森勝則 ドラムス・ボーカル

原田和夫 リードギター

橋本謙次 ベース

浅井たかし サイドギター


ディスコグラフィー

シングル(変色しているものは既CD化済み)

発売日

レコード番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位/枚数

備考

43.2.1

コロムビアLL10047JC

ケメ子の歌(ミス・ケミッ子)

不詳(馬場祥弘)

不詳(馬場祥弘)

浜口庫之助 

2位

32.2万枚

 日本歌謡史に残る空前絶後のブームを巻き起こした特異なエレキ化されたフォーク・ソング。フォークル「帰ってきたヨッパライ」に対する迎撃弾だったが、学生バンド的なフレッシュさにより、グループサウンズとカレッジフォークの両方の感覚をよく刺激し、また伝統的なコミックソングとしての王道を走っていたため数々のアンサー・ソングやエピゴーネンを生んだ。ジャイアンツと競作の形になったが、控えめなムシ声の使用などで素朴な作りのこちらに軍配。「ケメ子」という名前の奇抜な行動をする女の子に片想いする純朴な男の子が残酷に振られる様をほのぼのと描く。なお、近年では題名は「ミス・ケミッ子」と表記されることが多い。もともとの作者である馬場祥弘とは小森豪人のことだが、これが作者のつけた元々のタイトルだとしたら、文字通り「ケミカルな(=イカレタ)女の子」という意味であろう。なお、ニール・セダカ「かわいいあの娘」のパクリ説が根強い。肯定も否定もしない。

ブーケをそえて

堀井正次

土森勝則

 

 彼らのフォークロックバンドとしての面目躍如の快心の一曲。地味ではあるが壷を突いたサウンドのマイナービートがハートを突き刺す。初期ビートルズが土台となっていると思われる名曲。

43.6.1

コロムビアLL10055J

いつまでもスージー

浜口庫之助

浜口庫之助

筒美京平 

ランク外

 ブラスのせいで古くさく感じるが、本質的には洗練されたフォーク・ロック。花がないのが玉に瑕だが、何とかすればヒットの可能性もあったコンパクトな佳曲。自分は好き。(matさま有難うございました。)

君は恋の花

浜口庫之助

浜口庫之助

筒美京平 

 マイナーなオーケストラ入りビートバラード。悪い曲ではないが今ひとつ盛り上がりに欠ける上に、ぬめっとしたボーカルもぱっとしない印象を与え、何とも惜しい。(matさま有難うございました。)

44.4

コロムビアLL10097J

黄色いあめ玉

今井久

今井久

林一 

ランク外

 作者のせいでパープルシャドウズそのままのジャズ発想の小品。女性コーラスが謎めいていて良い。新しいボーカルに意外にテクニックがあってビックリだが、声質がそう聞こえさせないのが何とも残念。

遠い人

片桐和子

佐藤友孝

林一 

 バラード調のムードコーラス。淡泊ではあるが、リリース時期がもう少し速いか遅いかしていたらヒットしていたかもしれない、ムードコーラスとしてはキャッチーなメロディーの曲。ボーカルの巧さはこっちの方が解りやすい。(matさま有難うございました。)

 その他の音源

 スウィング・ウエストのワンマンリサイタルにゲスト出演して「ケメ子の歌」を披露した音源が残されているが、人気絶頂時らしく、歓声が凄まじい。凄すぎて演奏・歌唱が聞き取りにくいが、レコードよりかなりラフな印象を受ける。(もられすさま有難うございました。)また「いつまでもスージー」のラジオライヴの音源を聞いたが、もちろんノンオーケストラなのだが、パンチの効いたベースがリードを執っていかにもガレージバンド的。つまり、これもかなりラフ。(matさま有難うございました。)


カバース

「ケメ子の歌」ザ・イーグルス、松平ケメ子、オールスターズ・ワゴン、ロイヤル・ロック・ビーツ、加瀬邦彦とザ・ワイルド・ワンズ、SAMPLY RED(菅野よう子)、保田圭ほか、等々

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