永遠の高校五年生

ザ・イーグルス

The Eagles

説明: http://korekaimashita.web.fc2.com/homepage/eagles.jpg
日本のアングラは大空に向ってジャンプ。


 グループサウンド全盛期にはアングラブームというのがあった。アングラとはアンダーグラウンドのことである。ここで現在のインディーズシーンや高田渡らに代表される社会派ハード・フォーク、若しくは反戦とか反原発とかそういう言葉が浮かんだ人はすぱっと切り捨てて下さい。グループサウンズでいうアングラとは即ちムシ声入りコミックソングということに集約されてしまう。フォーククルセダーズの「帰ってきたヨッパライ」で始まりダーツの「ケメ子の歌」で最高潮に達し、そのままあっさりと潰れたアングラブームだが、その傷跡は凄まじく各社とも殆ど例外なくアングラ路線の楽曲をリリースしている。テイチクもその例外ではなく、フィフィザフリーが「おやじのロック」、ワンダースが「僕のマリア」、アイドラースが「タコにゃ骨がない」といった作品を次々送り出したのだが、その中でも終わってみたら正規発売されたキャリアの全てがコミックソングだったという壮絶なバンド経歴を残したのがこのイーグルスである。

 イーグルスは昭和41年に東京・日野の高校生によって結成されたチェックメイツがその前身である。立川のジャズ喫茶「ドミノ」にレギュラー出演していた。やがてこのアングラブームに乗ろうとしていたテイチク邦楽制作部のスタッフの目に留まり、ユニオンAH品番(邦楽制作担当)から43年4月に「昭和二世」デビューした。この際、改名されイーグルスというバンド名となったが、この時にはメンバーの多くは大学生であった。続いてオムニバスアルバム「アングラカーニバル」に参加したが、これは事実上彼らのアルバムのようなものであり、会社側からの要請と本人たちの真っ当なグループサウンズとしての意地がぶつかり合って奇妙な魅力を発散している。結局デビューした時点でアングラブームは既に去っており、これらのレコードでは成功を収めることは出来ず、すぐに解散してしまった。なお、チェックメイツ時代には「雨の夜の想い出」というオリジナルもあったという。

 このバンドの魅力はなんといっても米国ガレージに通ずる妙なビート感と若さという言葉がぴったりと来るファズギターの快活さに尽きるだろう。確かに歌詞はしょうもないかもしれないが、それでくだらないと言って切って捨ててしまうのは惜しすぎる。それだけの真摯さがこのバンドの演奏には溢れている。

 なお、「アングラ・カーニバル」は当時珍しくリアルタイムで海外(中華民国)で発売されたレコードなのだが、あまり知られていないように思われる。それにしてもこれを聴いた台湾人には意味が分かったんだろうか。


パーソネル

菊地信一 リードギター、ボーカル、リーダー(のちテイチクのスタッフ)

柚木保彦 ベース、ボーカル

山子政男 ギター

市原勉 ドラムス

長沢健 ボーカル


ディスコグラフィー(全曲CD化済み)

シングル

発売日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

43.4.1

テイチクUH5

昭和二世

門井八郎

久慈ひろし

菊池信一

ランク外

 ファズとワウワウを駆使した見事なコミックビートチューン。トクトクと弾かれるベースラインにはこのバンドの確かな実力が伺われる。これぞゴーゴーとでもいうべきグルーヴ満点の演奏にのって、昭和元禄ならではのあっけらかんとした歌詞が、いかにも根暗な野郎が無理して明るく歌っているような声で歌われるという、まさにカルト楽曲。同時に虫声も使われているが、これこそ「アングラ」の証。痛快!

青春ゴーゴー

門井八郎

福島正二

菊池信一 

 松島みどりという少女浪曲歌手の口上を頭と尻にフィーチャーしたコミックソングだが、今聞いたら殆どの若者には理解不能な講談ネタや時節ネタが繰り広げられていて時空が歪む。A面に比べるとやや軽薄に過ぎるきらいがあるが、ちゃんと自分たちが演奏しているのは好感。

アルバム

発売日

レコード番号

タイトル

収録曲

備考

43.6.

テイチクSL1235

アングラカーニバル

A昭和二世/高校五年生/(タコにゃ骨がない)/青春ゴーゴー/(拝啓カアチャン様)/咲かせて頂戴愛の花 Bケメ子の唄/結婚してチョ/(僕も男の子)/好きだったペチャ子/(夕べ泣いちゃった)/あー神サマ

 コミック・ソングばかり集めたオムニバスアルバムだが、事実上はイーグルスのアルバム言い切っていいかと思われる。このアルバムをどう聴き、どう評価するかでGSを馬鹿にして聞いているのか、真に感動して聞いているのかが解るという踏み絵みたいな作品。ストリングスをすっぱり廃して自分たちだけの演奏で押し通しているのには好感。基本的には戯れ唄や兵隊節をモチーフにした楽曲とテイチクの歌謡曲をカバーした作品が多いが、無理矢理「サマー・ホリディ」や「テル・ミー」などの引用といった一発ネタを絡めてくるのがグループサウンズとしての魂の燃えたぎりを感じさせて鬼気迫るものがある。オリジナルの「あー神サマ」の演奏は歌詞と相まって深遠さすら感じる。なお、本盤は当時台湾でも発売されたが、台湾側担当者は一体何を考えてこれを選択したのか今ひとつ不明。なお、「タコにゃ〜」と「僕も〜」は本間誠二とアイドラーズ、「拝啓〜」と「夕べ〜」はアンディ・ワードの作品。後者の正体は石原裕二郎などの仮歌歌手として活躍された方だという。

 この他「結婚してチョ」のテープ操作の絡まない別バージョンと「好きだったペチャ子」の元バージョンでシンプルなガレージ・フォークロックである「あの日の恋」がCD化されている。後者はマイナービートガレージ傑作中の傑作。

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