昭和15年のロックンロール

ザ・ジェノバ

The Genova

説明: http://korekaimashita.web.fc2.com/homepage/genove.jpg

発想力の勝利?シベリアサウンドは21世紀も人々を魅了し続ける。


 カルトGSの再評価が始まったのはもちろん近田春夫の「B級GS特集」の功績が大きいがそのころの再評価第一陣の中で横綱とされたのがレインジャーズとこのジェノバだ。

 ジェノバはもともと青春歌謡を志向していた北原じゅんの弟子たちがGSブームに合わせて作ったでっち上げのGSだ。最初はコンガもいたが病気で脱退したという。(これは氷川きよし等の師匠である水森英夫とのこと。)英米一辺倒の和製ポップスの流れと中性化に対抗するため、古くから日本人に親しまれていたロシア民謡を取り入れ男らしさを強調しさらに明治百年のムードを取り入れた反骨のバンドである。北原じゅんがGSブームに対応するためにルックス重視でサックス奏者の永田五郎の関係者を集め作ったGS。ちなみにバンド名は世界地図を広げてボールペンを放り投げたらジェノヴァに当たったのでそう決めたとのこと。ベースでリーダーの佐々木など実績のあるメンバーもいたが、ようやく北原に預けられた山本やギターをたしなんではいたがモデルであった岩本など修練度はさまざまであったが、とにかく歌がうまいメンバーがそろっていたとのこと。当初は水戸浩二のバックバンドとして修練し42年の末に水戸浩二の「君さえいれば」のバックを勤め、翌年2月怪曲「サハリンの灯は消えず」でクラウンからデビューした。このうたはオリコン37位のスマッシュヒットを記録したが自分たちで演奏しており、極めて短期間で素晴らしい技量を身に着けたことがうかがえる。その後のちにサハリン三部作と呼ばれる一連のシベリアサウンドものを発表したが、商業的成功は得られなかった。アルバムも制作に入っており、さあこれからというその年の10月ごろとある大スキャンダルでギターが交代し、事務所にもレコード会社にも見捨てられたが、ヒット曲があるということで別の人に誘われ仕事場を関西へ移すとともにコロムビアに移籍した。なおこの件については平成に入ってから元メンバー皆で飲みに行って一応和解したとのこと。「11PM」の関西制作の際には損組内で「帰り道は遠かった」を演奏(関東制作の際はチコとビーグルスが演奏。)、ビクターのチコとビーグルスと競作する形になり、5万枚程度の売り上げがあったが、チコビー盤の売り上げには適わなかった。(「返り討ち」という表現は山本さんが嫌がっておられたので撤回。)その後はレコードを出すことはなかったが、しばらく熱海のホテルやクラブなどで活躍していたらしい。大スキャンダルに巻き込まれ自分たちではどうしようもないことがあるという諦観に取りつかれたのが原因とのこと。水森英夫が敏いとうのところからこのバンドに身を寄せたのはこの時分だが、バンドに将来の展望が望めないことがわかると一週間ほどで脱退してしまったという。どうも音的にはラテン上がりっぽく、本人たちもっとも誇りと思っているのは「ダイヤの涙」ということだが、「マサチューセッツ」などいわゆる普通のレパートリーも持っていた。ただステージの運び方は本人から聞いた限りでは歌謡グループっぽい。

 ジェノバと言えば過剰に歌謡曲を強調した色物バンドと言うことになっているが敢えて彼らもロックバンドであったと言うことを主張したい。それもかなりいいセンスを持った。本人たちももちろんGSのつもりでやっていたのだ。たとえば「さよならサハリン」である。この歌は文句無くかっこいい。やけに切れのいいドラムとファズギター、聞くものを高調させずにはおれないボーカル。ただ変というだけでは30年も生き残れなかっただろう。「サハリンの灯は消えず」はレンジャーズの「赤く赤くハートが」とともに「トンネル天国」や「電話でいいから」に対する裏のベストとして永久に聞き伝えられていくに違いないのである。

 その後、北原じゅん氏の著作に「ダスビダーニャ樺太 さよならサハリン」(サンケイ出版・昭和58年)なる著作があることが判明。つまり一連のサハリンシリーズは作曲家の思想から出た楽曲であることがわかった。若木香氏は北海道の放送作家らしいと聞いたが確認とれず。

 山本はジェノバ解散後ソロ歌手に転身し銀座で流しをしていたが、その時分には随分モダンな様子で全く歌謡曲の面影はなかったらしい。

 なお、平成15年に西田、山本と新メンバーにて再結成されクラウンからシングルを出している。


パーソネル

佐々木章二 ベース

岩本まさる リードギター(クラウン時代)

金原まもる オルガン

西田憲夫 ドラムス(元・トシ伊藤とザ・プレイズメン、のち・松平直樹とブルーロマン)

山本吉明 ボーカル

上田健一 ギター(コロムビア時代)


ディスコグラフィー(変色しているのはCD化済み)

発売日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

43.2.10

クラウンPW11

サハリンの灯は消えず

若木香

北原じゅん

北原じゅん

37位

6.5万枚

 カルトGSの代表的名曲。力みに力んだボーカルとぶっといギター音が終戦当時の樺太からの引き上げ者の心情を余すところ無く歌っている。オルガンのスパイスが意外に効いている。実はボーカル以外に目を向けるとあんまりビート感が無く、曲調は普通の歌謡曲寄りのGSバラードなのだが、何かとんでもないので未聴の人は一聴お願いする。

ダイヤの涙

若木香

北原じゅん

北原じゅん

 彼らの出自がわかるラテンもの。ガレージなチープオルガンを先導にした軽快な曲だが、ムード歌謡に片足をつっこんでいる。リズムチェンジの工夫あり。本人たちにとってはこのバンドの金字塔。

43.5.1

クラウンPW20

いとしいドーチカ

若木香

北原じゅん

北原じゅん

ランク外

 出出しのトロイカのハミングは永遠に語り続けられるだろう。男男したボーカル、ギターは相変わらずだが歯切れのいいドラムがかっこいい。この歌詞だと主人公はロシア人と暮らしていたことになるがそれでは戦後のことじゃなくなってしまう。ドーチカとは娘という意味らしい。

別れた湖

若木香

北原じゅん

北原じゅん

 軽やかなバッキングと暑苦しいユニゾンが好対照。でも受ける印象はなぜか北方歌謡。謎の掛け声は知子のロックにも流用された。

43.7.1

クラウンPW33

さよならサハリン

若木香

北原じゅん

北原じゅん

ランク外

 燃えたぎる激情、ほとばしる叫びと充分ロックなバンドの演奏、感傷の極まるマンドリンとストリングスのエキストラトラックどれもこれも過ごすぎる。このバンドの最高傑作。ドラムの爆裂ぶりは相変わらず。たたみかけっぱなしの大名曲。

想い出のムーンストーン

若木香

北原じゅん

北原じゅん

 普通の出来のいいポップスなんだけどこのバンドがやると妙に漢字漢字した歌詞の印象を受ける。情緒に訴えるところが大きく二重丸。

43.11

コロムビアLL10076J

帰り道は遠かった

藤本義一

奥村英夫

川口真

ランク外

 出出しの鈴の音がまるで馬子歌。ほぼバンドだけによる演奏はコロムビアのバンドとしてはガレージ度満点。竜巻のようなドラムスが印象的。チコとビーグルスとの競作になったがセールス的には大惨敗。曲の出来自体はこっちの方がいいのだが。よく考えたらこれ女歌だ。何故。ちなみに真のオリジナルはインディーGSのサブ・アンド・ビートのものだがこちらも違う意味で壮絶!

町田千枝

(捕)英げん

英げん

川口真

 今までやってきたことを否定するかのような舌っ足らずな平庸GS歌謡。同時期の市川染五郎を髣髴とさせる。しかしこの時点でボーカルが19才とは。

 平成15年に新結成され、4月にクラウンから「サハリンの灯は消えず/帰り道は遠かった」というカップリングで新録音され、マキシシングルを出している。

17cmLP

発売日

カタログ番号

タイトル

曲目

備考

42.

クラウンLW1134

(なし)

Aサハリンの灯は消えず/別れた湖Bいとしいドーチカ/ダイヤの涙

 「サハリンの灯は消えず」のヒットに伴うミニベスト。

 ほかに「ジェノバにしびれて」「月光の歌」「小雨のシーサイド」という3曲がCD化されている。録音時期から考えると「サハリンの灯」がヒットしなかったらムードコーラス路線で行く腹積もりがあったのではないか。「ジェノバに・・・」はまるで岡晴夫みたいな歌詞だが、快活ながらなんだかわからないバンカラな凄みのある曲調で当時のドラマの主題歌を思わせる佳曲。最後の叫びもわけがわからない。「月光の歌」は変な歌いまわしが耳に残るディープなムードコーラス調歌謡曲。サビの歌い回しは軍歌の「進め一億火の玉だ」を髣髴とさせる。「小雨のシーサイド」は台詞と歌が交互に入る珍しい形式の陽性のムードコーラス系歌謡曲。すごいわ、ジェノバ。特に山本吉明。クラウンを追放されていなかったらアルバムを出していてもおかしくなく、本人たちはアルバムを出したつもりでいるようだからそれ用だったのだろう。

 バッキングでは前述の通り正式デビュー前に水戸浩二「君さえいれば」「作ってあげようネックレス」の両面でその演奏が聴ける。ただし、クレジットはない。前者はえらく地味な曲で、素の演奏ながらあまりジェノバ色のない演奏を披露しているが、さびで入る山本のコーラスがボーカルを完全に喰っているところにボーカル&インスツルバンドたるの意地を感じる。後者はのちのジェノバサウンドが完全に完成されており、曲自体が大した曲でないのが真におしい。


カバース

「サハリンの灯は消えず」スパンキー(ほかにフィリピンのガレージバンドがカバーしているという未確認情報あり。)

「帰り道は遠かった」競作、カバー多数

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