クラブからの刺客
ザ・ハイローズ
The Hi−Lo’s
GSとムードコーラスを右往左往
GSの中でも確実に一角を形成しておきながら、現在ではまるでなかったことにされている一派にタキシードやスーツを着ていた連中というのがいる。彼らは見た目が地味な上、レインジャーズという例外はいるもののブルーコメッツやヴィレッジ・シンガースら長年にわたりGSファンから迫害されていたムードコーラスに音的に近いバンドが多く、ガレージ一辺倒な歴史感の中では「GSの恥部」とさえ思われているようだった。その中でも、もっともルックスという点で大損をこいていたのがこのバンドである。
このバンドはもともと学生ハワイアンバンドで活躍していた前田長靖が明治学院大学の同級生や昭和19年生まれでバイオリニストを目指していた慶応の木谷昭彦、彼の弟でソリストを目指していた美彦らを加え、昭和41年6月に結成したグループである。名前のとおり、アメリカのハイローズを目標に、フォー・フレッシュメン式のボーカルグループを狙っていた。横浜、東京のクラブを中心に米軍キャンプやジャズ喫茶を舞台に活躍し、ハイローズ、フォー・フレッシュメンのほかアメリカンポップスをレパートリーとしていた。言わば、叩き上げの実力派バンドである。42年11月にテリーズに続きテイチクの邦楽チームがGSを送り出すために特別にユニオンに間借りしたUH品番の第二号タレントとして「君をはなさない」デビューした。この歌はラジオで初めて聞いた黒沢進氏(当時中学生)が「てっきりマッシュルームカットのバンドがやっていると思ったので、あとで写真を見て驚いた」というほどビートの効いた切れのいいロックだったが、ヒットしなかった。続いてムードコーラスが台頭してきたのでその路線の「東京モナミ」をリリースしたが、こちらも局所的なヒットにとどまり、そこで打ち止めとなってしまった。サウンド的にはビブラフォンが採用されていたのが珍しかった。その後前田と木谷兄弟、それからハイローズのボーヤだった坂柳千明(G)の四人でステーションというバンドになり、昭和47年にキャニオンから「朝日のようにさわやかに」をリリースしている。未聴だがソフトロック調の曲という。このほかステーション時代にはペプシコーラや山崎スナックのCMソングも録音している。
このバンドは外見に反してすっぱりとオーケストラを廃した自分たちだけの演奏を押し通したため、で゛どの曲もGSならではのグルーヴに満ち溢れている。デビュー曲以下いかにもB級GSという曲ばかりである。また、ムードコーラスに近い曲にもボーカルにビブラートがかからない点や洋楽ロックからの引用が随所に見られるところなどにGSとしての意地が見られる。いまだに各地で聞く気もしないなどと言われてしまう可哀想な連中だが、一度聞いてみればその見方は大きく変わるかもしれない。外見じゃなく音を感じろ!
パーソネル
佐々木 一廣 ギター
中村 修 ベース
前田 長靖 ドラムス
木谷 昭彦 ビブラフォン
木谷 美彦 オルガン
ディスコグラフィー(全曲CD化済み)
発売日 |
カタログ番号 |
タイトル |
作詞 |
作曲 |
編曲 |
オリコン順位 |
備考 |
42.11.10 |
ユニオン UH2 |
君をはなさない |
木谷昭彦 |
木谷昭彦 |
ザ・ハイローズ |
ランク外 |
粋ないかにもジャズ出身であることがわかるコーラスワークのせいでジェントルに聴こえるものの、よく聞けばビートの利いたオルガンパンク。ビブラフォンがフィーチャーされているが、全編リフをはじき出し続けるオルガンの方が目立つ。気風がいいのに肝心なところでもたるドラムがお茶目。「ブルコメ風に」という発注で編曲したとのこと。 |
僕の恋人・君・君 |
渋沢敏 |
渋沢敏 |
ザ・ハイローズ |
これも自分たちだけの演奏で押し通す落ち着いた歌謡曲。これもジャズ臭が強烈。盛り上がりなども特になくあっさりと終わってしまうのが逆にこのバンドらしい。 |
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43.4 |
ユニオン UH4 |
東京モナミ |
武田義明 |
柴野一男 |
小谷充 |
ランク外 |
はねる三連ロッカバラード。ティピカルなムードコーラス。まるでスチールギターのようなギター/ビブラフォンワークのせいでルーツのハワイアンの色が強い。じめじめした独特の暗さがムードコーラスものにはたまらない。どこかで「東京限定の友達?」との突込みがあったが、読めば読むほど、その通り、その境遇の女性との悲恋をロマンチックに描いた哀愁歌謡の佳作。「ブルコメ風に」という発注で編曲したとのこと。渋谷有線で1位になり、公称で3万枚売れたとされる。 |
恋のアリア |
木谷昭彦 |
木谷昭彦 |
ザ・ハイローズ |
「G線上のアリア」を大胆にあしらったバラード。あきらかにプロコルハルムの「青い影」に影響を受けた楽曲で、寂れたオルガンの音色が深遠。楽曲的にはこのバンドで一番いい歌。録音も薄いとか言われているが夜中に聞いてると泣きそうになるのでこれはこれで成功している。ストレートな失恋ソング。 |