元祖めんたいビートはラテンロック

レオ・ビーツ

LEO BEATS

(ルートNO.1/里見洋と一番星/ブルー・ジャッカス:ROOT NO.1/Hiroshi Satomi&Ichibanboshi/Blue Jackas)

説明: http://korekaimashita.web.fc2.com/homepage/leobeats.jpg

↑なんだか北方ぽいが九州の連中


 のちにチューリップや海援隊、陣内孝則など数々のスターを生み出した福岡のいわゆる「めんたいロック」の先駆者である。実際、彼らは「めんたいロック」勢にはロックとは思われていなかったようだが、福岡で一番最初に東京へ進出したバンドという認識はされていたようで、チューリップの財津和夫が、冗談としてではあるが、ラジオでその話題になったときこのバンドの名前を真っ先に挙げていた。(もっとも、同時期ハプニングス・フォーもいたけど。)

 もともとは41年11月に結成された里見洋とロス・カンターノスというラテンバンドで福岡を中心に活躍していた。やがてたまたま福岡に来ていた布施明(とされているが実際には渡辺プロの社員)によって発掘され、42年7月に上京、渡辺プロと契約した。なお、カンターノス以前に里見洋はクニ河内らとサンライズというラテンバンドを組んでいたらしい。当時福岡にあった西鉄ライオンズ(現・西武)にちなみレオ・ビーツと改名され、8月からはジャズ喫茶での仕事を始めた。ラテンロックを売りとして11月にはキング/セブンシーズから「霧の中のマリアンヌ」のリリースにこぎつけた。その実力は高く買われており、木の実ナナや奥村チヨをはじめレコード/ステージ上で渡辺プロやキングレコードの歌手のバックとして重宝されていた。また、渡辺プロもアウトキャストらを差し置いてこのバンドを売り出そうとしていた機運が感じられたが、結局GSとしての二枚のシングルはパッとすることなくGSの狂騒の中にかき消されてしまった。そこで彼らはレコード戦略上はムードコーラスグループとして再出発することとなり、43年8月極めてセンチなムードコーラス「別れの歌」をリリースしたが、事態は好転せず、もう一枚同路線の「君に幸せを」をリリースして打ち止めとなってしまった。実際にはライヴなどではきわめて熱いサイケ演奏を披露したり、ポールリビアとレイダースをカバーしたりするハイブローなGSだったらしい。

 しかし、実力の高いこのバンドがそう簡単に終わるわけがない。渡辺プロということでだと思うがマーガレット・スーらスクール・メイツ出身の女性ボーカル部隊3人がレオ・ビーツにそのまま加わり「ルートNo.1」と再改名された。45年にはまたもやキング/セブンシーズから「恋の手ほどき」で再デビューした。このバンドはラテンフレーバー溢れる躍動感いっぱいのスウィートなコーラスは現在でこそソフトロックとしてそのサウンドが評価されているが、当時はあまり受け入れられず、結局この路線も僅か3枚で打ち止めとなった。その後メンバーを再編しボーカルに元ヤンガーズの窪孝やオルガンに元アダムスの土谷守らを加えきわめて演歌濃度の高いくせにプログレロックの影響下にあるというわけのわからないけど何だかすごいムードコーラス(歌謡ポップス)グループ里見洋と一番星となった。しかし、ここでもアルバムリリースなどにはこぎつけられたものの最終的にヒットには結びつかなかった。それにしてもなぜ一番星時代は大幅なパートチェンジがあったのだろう。結局、この奇策とも言えたムードコーラス路線でも成功したとは言い難かったため、ついに、昭和48年、渡辺プロとの契約はうち切られてしまった。しかし、それでもメンバーの音楽への執着は断ち切れず、レオビーツ以来の一番星の残党が中心になってコーラス重視の歌謡ポップスグループ・ブルージャッカスが結成された。このバンドも、昭和49年にフィリップスから「理想の女」でデビューしたが僅か一枚のシングルだけで終わってしまった。この後一貫したメンバーだった古賀はタモリと「今夜は最高」に出演したほか裏方として活躍した。

 このバンドの魅力は何と言っても時にはスウィートに囁きかけ、時には破壊的に叩き付けるボーカルの巧さであろう。また、あまたのバッキングを残したことでわかるように、パーカッションに代表されるラテン的な感覚にのったオルガンを中心とした適度な濃度の演奏は手堅く歯切れよい。が、その実結構破綻しているという互いに矛盾する要素が絡み合いわけのわからないモンド味を漂わせている。一般的にはロックよりだとは思われていないが、時折顔を出す熱すぎる秘めたロック魂が実に爽快なバンドである。

 一番星に関しては佐伯様に大きな協力を頂きました。有難う御座います。


パーソネル

(レオ・ビーツ/ルートNo.1)

里見洋 パーカッション

古賀修 リードギター

西信行 オルガン(のちタローとアルファベッツ)

中野健二 ドラムス

中村伸次 ベース

東信行 ボーカル

(ルートNo.1)

マーガレット・スー ボーカル(元 スクール・メイツ)

中村知子 ボーカル(元 スクール・メイツ)

吉沼満子 ボーカル(元 スクール・メイツ)

 

(里見洋と一番星)※はレオビーツのオリジナルメンバー

絵川たかし リードボーカル(元 ザ・ヤンガーズ、のち 和田弘とマヒナスターズ)旧名・窪孝

里見洋 リーダー、パーカッション※

古賀修 ギター※

中野健二 ベース※

土屋守 オルガン(元 アダムス)

東信行 ドラムス※

 

(ブルージャッカス)※はレオビーツのオリジナルメンバー

古賀義弥 ギター※

中野健二 ベース※

東信行 ドラムス※

田村実 フルート


ディスコグラフィー(変色しているものは既CD化済)

レオビーツ

シングル

発売日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

42.11.10

セブンシーズHIT719

霧の中のマリアンヌ

橋本淳

すぎやまこういち

 

発足前

 イントロは「マシュケナダ」だがするすると歌謡曲の鞘に収まっていくラテンもの。さびで一気に熱いボーカルが爆発するのが妙味。ねばねばしたボーカルが実にかっこいい。

恋に生きる

橋本淳

すぎやまこういち

 

 B級感溢れる安い音のもったいぶったイントロからはじまるマカロニ風の感情剥き出しビートもの。リズムに乗った正統派GS歌謡が歌われる。実力の程が伺われるつけ過ぎな位メリハリのついた切れのいい演奏が実に爽快。コーラスも良し。

43.3.10

セブンシーズHIT728

貴族の恋

橋本淳

すぎやまこういち

すぎやまこういち

ランク外

 オルガンと女性スキャットが先導する穏やかな歌謡ポップス。ここでもさびで派手に爆発するラテンバンドとしての意地と何事もなかったように再びAメロを穏やかに奏でる静と動の対比が見事。

あなたの影

橋本淳

すぎやまこういち

すぎやまこういち

 A面をより派手にしたような急ぎ足のラテンロック。とろけたようなギターは「間抜け感」を煽るがその裏の緊張感あふれるオルガンがいい。

43.8.20

セブンシーズHIT737

別れの歌

なかにし礼

すぎやまこういち

すぎやまこういち

ランク外

 音が妙に深い、山を地道に下っていくような感覚に襲われるムードコーラス曲。ジェントルで哀愁いっぱいな小品。意外にラテン色は薄い。ブルーシャンデリーによるリメイクとは何故か歌詞の順番が違う。

哀愁のシルバーレイン

なかにし礼

すぎやまこういち

すぎやまこういち

 チェンバロとストリングスで始まる悲しみを湛えた極めて歌謡色の強いポップス。さびでの一気呵成とそこまでの抑制の仕方は相変わらず。ボーカルが微妙にスタッカートしている。センチメンタルの極み。

44.2.1

セブンシーズHIT743

君に幸せを

なかにし礼

すぎやまこういち

すぎやまこういち

ランク外

 オルガンがやたら目立つ穏やかなムードコーラス。基本的には前作までと同じようなつくりだがリードボーカルのビブラートとよりムードコーラス的になったコーラスワークがいかにもGSのラストシングルらしい。

許しておくれ

なかにし礼

すぎやまこういち

すぎやまこういち

 A面と同じような歌だが、さびの唐突さがコーラスが耳に残る。ボーカルは何だかすごく甘えた。歌謡曲としての出来はA面より良い。

 ほかにアポロンから出たオムニバス4枚組みテープ「明治百年大全集」で「女心の唄」のカバーを披露している。さらにレイダースのカバーなどを熱演しているブートのライブ録音テープが残されているが、外部へ漏洩されたことはないらしい。

バッキング

 前述のとおり、このバンドはバックバンドとして重宝がられたので主に渡辺プロの女性歌手を中心にバッキングを残している。そのどれもが何だかわからない勢いとジェントルさ、手堅さが同居している。また、主唱のキュートさもあり、聴いてみる価値は十分あると思われる。なお、現在入手できる彼らのバッキングものは以下の通り。

 木の実ナナとレオビーツ「レッツ・ゴー・ナナ」(新星堂 SPW10010・オリジナルは43年5月リリースのアルバム キング SKK430)のうち「モンキーズのテーマ」「オーケイ」「ラララ」「ダンス天国」「バラバラ」「好きさ好きさ好きさ」「君だけに愛を」「バラ色の雲」「ブルーシャトウ」「青空のある限り」でバッキングとコーラスを披露している。(編曲も担当。)ムシ声なども使用した結構聴き応えのあるアルバムだ。

 また、奥村チヨとレオビーツ「幻のアマリリア」(新星堂 SPW10009・オリジナルは43年7月リリースの8トラ アポロン 8AS119)のうち「君を歌う」「涙のかわくまで」「幻のアマリリア」「恋のフーガ」「霧の摩周湖」「ひみつ」でバッキングとコーラスを披露している。

 ほかに平尾昌章のアルバム「愛を求めて」(キングSKK433)でも「恋のギターラ」「渚のセニョリーナ」のでバッキングを務めているが、これらは非常に匿名的で、グループサウンドやレオ・ビーツの演奏を聴くというよりもどこかのラテンバンドの演奏を聴いているような印象を受ける。ただし、このアルバムの中では最も出来のよい演奏になっている。 

ルートNo.1

シングル

発売日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

45.2.20

セブンシーズHIT761

恋の手ほどき

片桐和子

小谷充

小谷充

ランク外

 きらびやかなオーケストラに乗ったジェントルで完成された男性コーラスと元気で未来を拓くような女性コーラスが鬩ぎあい、そして織り成す極上のソフトロック・サウンド。

君はわが胸に

片桐和子

小谷充

小谷充

 これは寝る前に聞きたい落ち着いたグッド・ソフトロック。ただし女性陣がジェントル(!?)でまとまっている割に男性陣のまとまりのなさが気になる。

45.6.1

セブンシーズHIT776

大学唄い込み

山上路夫

すぎやまこういち

すぎやまこういち

ランク外

未聴。民謡のパロディらしい。

大学ノート・サンバ

山上路夫

すぎやまこういち

すぎやまこういち

 タイトルからしてセルメン。詩や「ホイサッサ」という掛け声さえ気にしなければ憂いを含んだ和製ボッサノーヴァの大傑作。演奏、歌唱とも完璧。小品。

45.7.1

セブンシーズHIT768

恋の246

山口あかり

小谷充

小谷充

ランク外

 このバンドの最高傑作。一点の曇りもないビッグバンドに乗った快活な掛け合いソフトロック。男性陣がここでも少し足を引っ張っているが、そんなものを補って余りある煌きが詰まっている。後半のスキャットの掛け合いはまさに日本ソフトロックシーンのハイライトにふさわしい。

愛の世界に旅立つ二人

片桐和子

小谷充

小谷充

 結婚式に流すのにふさわしいようなオーケストレーションと複雑に絡まりあうコーラスが感動を呼ぶソフトロック系ポップスのよく出来た小品。

 

里見洋と一番星

シングル

発売日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

46.6

ワーナーL1042W

新盛り場ブルース

阿久悠

城美好

小谷充

ランク外

 聞いたもの誰もが驚嘆するプログレ・ムードコーラス!グルグル回るべたついた泣きのボーカルにオルガン主戦のファンク的ともいえる驚異的に熱い演奏が一体となって絡みついてくる悶絶の大作。奇妙な合いの手も耳に残る。なお、一応森進一のカバーだが歌詞は完全に差し替えられている。

慕情〜天草の女〜

山口あかり

平尾昌晃

古賀修

 A面と同じ路線(この時点で既にアレ)だがさらにボーカルが悶えまくり豪い事になっている問題作。元ヤンガーズ・絵川(窪)の粘ついた歌唱が全身の血を引かせる。オリジナルは森進一。

46.10

ワーナーL1060W

ミツコの運命

阿久悠

猪俣公章

小谷充・古賀修

ランク外

 むちゃくちゃかっこいいイントロと叫び声一発で始まる寺尾ユージ「ふるさとを返せ」に通じる重苦しい演歌より歌謡曲。抑制された展開とふっきったような叫ぶサビ。このバンドの特徴たる奇妙なコーラスが堪能できる。

はぐれ花

川内康範

彩木雅夫

小谷充・古賀修

 落ち着いた典型的なムードコーラス曲。「マシュケナダ」風に始まる。歌とまったくミスマッチなゴリゴリした骨のある演奏を繰り広げるが特にブルブル唸るベースがかっこいい。ボーカルは相変わらず絵川が血管ぶち切れんばかりに歌い上げて、文句なくかっこいいが意外に盛り上がらないままあっさり終わるメロディーが惜しい。

47.3

ワーナーL1075W

明日へ走る

林春生

ザ・ベンチャーズ

小谷充

ランク外

 自慢のキーボードプレイを前面に押し出した疾走感溢れるベンチャーズ歌謡。ムードコーラス色もエレキ色も殆ど無いよく出来たポップスだが、ランニングベースに度肝を抜かされる。全部を通して聞くとこれだけが浮いてる。

おとなの子守唄

山上路夫

平尾昌晃

小谷充

 伊集加代子と思われる女性スキャットで導入される狩人的な凡庸なポップス。コーラスも普通。さびで声のひっくり返る所だけが聴き所。

48.1

ワーナーL1116W

女ひとり宿場町

ちあき哲也

鈴木淳

小谷充

ランク外

 日本情緒を強調した昭和最末期の五木ひろし風。このバンドでやる意味がまったくわからないオーケストラに乗った何の長所のないムードコーラス色さえもない演歌の凡曲。

君を捨てて

千家和也

加瀬邦彦

小谷充

 退廃的で完成しているが今ひとつ物足らない凡庸な三連ロッカバラード。

アルバム

発売日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

46.7

ワーナー L6012W

一番星/新盛り場ブルース

A新盛り場ブルース/裏切るのはやめて/おばかさん/優しくだまして/北国に眠る/土曜の夜に B長崎は今日も雨だった/おもいで/望郷/女の意地/噂の女/慕情〜天草の女

 A面は(おそらく)オリジナル、B面は渡辺プロの歌手のカバーで固めた唯一のアルバム。ドラムの音が異常にいい。何といっても度肝を抜かされるのはクールファイブ「長崎は今日も雨だった」のカバー。ファンキーなロックンロールが始まったかと思うとさびで唐突に原曲調になり、一呼吸ポップス調をはさんで決めで原調に戻るというせわしなく、聞き手を置いてきぼりにする狂気の楽曲。めちゃくちゃかっこいい。やっぱりこのバンドは自力で演奏したほうがハマル。他ではボーカルもギターもコーラスも聞いていると気が狂いそうになる「裏切るのはやめて」や、レオ・ビーツ以来の特徴的なジェントルなハーモニーと歌い上げる演歌的な世界が混沌とする「望郷」、前川清の物真似がかなり入ってるが完全に別物になっている真っ黒なグルーヴの「噂の女」など、一筋縄ではいかない楽曲がある一方で、正統的なオーケストラに乗ったホストっぽい曲や歌い上げバラードもあり、一種異様とも言える迫力がある。「女の意地」は「明日へ走る」の音に酷似。オーケストラバリバリのA面よりはより自演色が強いB面の方が聴き応えがある。どの曲も大盛り上がりになる前に波が引いていくような感覚があり、もっと聞きたいという欲求が積る。それにしても、特徴ありすぎなボーカルや異常にかっこいい演奏以上につくづく不思議なコーラスの入れ方をするバンドという印象が強く残る。彼らが同時期のニューロックバンドが到底到達し得なかった地平に立っていたことがよくわかる大傑作。一時CD化の話があったが流れてしまった。実現していれば画期的だったのだが・・・。→のちシングル曲とボーナストラックを付けた形でCD化された。

他に当時発売された8トラに収録されていた「銀座の女」「霧の摩周湖」と未発表曲の「少し時間を下さい」がCD化されており、あっという間に全曲CD化されるというムードコーラスグループとしては大変珍しい事態になっている。

ブルー・ジャッカス

シングル

発売日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

51.(春)

フォノグラムFS1857

理想の女

古賀郁二 

古賀郁二  

古賀郁二  

ランク外

歌謡ポップスとムードコーラスとの境界に位置する作品でややムードコーラスよりと言ってもよいような作品だが、コーラスの上手さは相変わらずで、複雑に絡み合うジェントルな掛け合いコーラスと躍動感溢れる演奏がレオ・ビーツ以来伝統を感じさせる。

愛は一度だけ

朝倉康二 

古賀郁二  

古賀郁二  

いかにもアダルトポップス然とした哀愁のバラードながらただのムードコーラスとは違う雰囲気で、コーラスの入れ方が絶妙でこちらもジェントルさが残っている。レオ・ビーツの末路としては落ちぶれた感が全くないのでこれはこれでいいのでは。

 


カバース

「別れの歌」 新城健とブルーシャンデリー(「別れのバラード」として。)

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