GSという名のアナーキーロック
ザ・リンド&リンダース
The Lind & Linders
関西ロック人脈の総親玉。
「関西にもエレキバンド」をという芸能事務所社長でドドンパの創始者・古川益夫の願いを受けジャズ・ギタリストだった加藤ヒロシが40年8月に結成したザ・リンドがこのバンドの発祥である。たちまち関西ナンバーワンのエレキバンドという名声を得た。その後ビートルズ時代に対応しボーカル部門を開設しこれをリンダースとした。こうして演奏部門とボーカル部門の連合軍としてザ・リンド&リンダースという形でステージをこなすようになり、この名前が定着した。ジャズ喫茶で人気を博し、テレビ出演もこなした。このころ出演していた「ナンバ一番」などのジャズ喫茶などではファニーズ(タイガース)を弟バンドとして従え、仕事を互いに割り振りあっていたという。タイガース上京後はナポレオンがこの役割になった。42年2月にはリンダースの加賀テツヤのソロ名義で「ギター子守歌」をリリースした。続いて3月には会社側の反対の声を押し切りバンド名義でエレキ演歌調の「燃えろサーキット」をリリースした。しかしこの二曲は大してヒットしなかった。当初はリンダースと言うぐらいでボーカルが3人もいたがこういう編成では人数の関係からギャラがバカに出来なくなり、またバンド内に扱いなどを巡って派閥が出来、加藤派と高木派に何となく別れるようになった。そのうちに高木和来たちはザ・サニー・ファイブを結成した。こういったバンドの危機を乗り越え本格的なGS路線で再出発、43年1月に「銀の鎖」を発表し、オリコン42位に食い込ませた。続く「夕陽よいそげ」もそこそこヒットした。このバンドはステージの上で出前を取ってラーメンを食い始め、ヌードグラビアに出て純真な少女とその親の顰蹙を買った。ついでに馬も買っていた。世界に向けて衛星中継で演奏を披露した。ゴーゴー喫茶も経営した。そこにはナポレオンも出ていた。宗教問題で拗れた。43年11月にはリーダー加藤が前衛音楽会を開いた。一体何をしているのか。関西最大のGSとして君臨したが、その後はヒットに恵まれず、アルバムどころか44年にはシングルもリリースできないじり貧となって解散した。
このバンドの魅力・・・。こんなぐちゃぐちゃな経歴の示す通り、破天荒でロック的な精神構造が音の端々にあふれ出てるところが魅力というと強弁だ。何だろう。こんなんなのに音自体はきわめてオーソドックスなところか。変な曲やってるけど。もちろん演奏のうまさは折り紙付き。かつてはカルトGSの頂点と言われたのに世の中って無情ですね。
パーソネル
加藤ヒロシ リードギター(のちP36、ゴジラとイエロージプシー)
加賀テツヤ ボーカル
榊 テルオ ボーカル
島 明男 ドラムス
宇野山和夫 ベース 43年はじめまで(元・宮崎イサオとザ・ハリケーン)
高木カズキ ギター・ボーカル(のちサニー・ファイブ)42年夏まで
迎 修二 ボーカル(のちサニー・ファイブ)42年夏まで
浜田 藤丸 ドラムス 42年秋から
堀 こうじ ギター 42年秋から
毛利 アキ ベース 43年始めから
ディスコグラフィー
シングル(全曲CD化済み)
発売日 | カタログ番号 | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | オリコン順位 | 備考 |
42.2 | フィリップスFS2 | ギター子守歌 | 寺山修二 | 本居長世 | 加藤ヒロシ、林一 | 発足前 | 情緒きわまる子守歌。遠い星空を見ながらひとりで涙に浸りながら聞きたい。加賀テツヤのソロ名義。ネタは「中国地方の子守歌」。 |
ギター子守歌 | (インスト) | 本居長世 | 加藤ヒロシ、林一 | カラオケ。 | |||
42.3.1 | フィリップスFS1008 | 燃えろサーキット | 寺山修二 | 加藤ヒロシ | 発足前 | 沖山優司の「東京キケン野郎」をもっと泥臭くしたような痛快なエレキ演歌。ギター弦をこすってエンジン音を表現するという技巧が隠し味。かっこいいといえばかっこいい(マイナス方向に)。初のバンド名義、オリジナルだが。 | |
ドゥー・ザ・クラップ | 青木孝 | 加藤ヒロシ | こっちは初期スパイダース的なダンス・チューンでガレージの佳作。「ヘイ、ミスター・加藤」という掛け声を聞くとジョージとかそういう渾名はつけておくもんだと思う。やや長め。 | ||||
42.8.25 | フィリップスFS6 | 売られたギター | 寺山修二 | 加藤ヒロシ | 五十嵐謙二 | 発足前 | 「ノーエ節」みたいな歌で、「ギター子守歌」を踏襲。こちらも情緒が深くて完成度高し。あとはボーカル。これも加賀テツヤのソロ名義。 |
あした陽が昇ったら | 原とし子 | 加藤ヒロシ | こっちはバンドっぽい。ほのぼのとした前途の明るい歌。なんとなくフレッシュメンの「お花おばさん」を思わせる。 | ||||
43.1.25 | フィリップスFS1036 | 銀の鎖 | 利根常昭 | 利根常昭 | 利根常昭 | 42位
2.9万枚 |
GSのパブリックイメージに近い少女趣味の哀愁きわまるオーケストレーテッド・ビート・バラード。この路線の曲の中では屈指の名曲。 |
恋にしびれて | 利根常昭 | 利根常昭 | 利根常昭 | こっちは一転ワイルドなナンバーでファズギターとストリングスのスリリングな攻防が強いビートの下で堪能できるこのバンドの最高傑作。 | |||
43.5.25 | フィリップスFS1045 | 夕陽よいそげ | 木島雅絵 | 加藤ヒロシ | 加藤ヒロシ | 51位
2.7万枚 |
歪みまくったギターが効果的に使われるビート調の佳曲。アホみたいな最後の叫び声というか呼び声がGS情緒満点。 |
はなれぼっち | 古川益雄 | 加藤ヒロシ | 林一 | 加賀テツヤのソロ名義作品を思わせる日本情緒満点の哀愁歌謡。間奏はいきなり「誓いのフーガ」を挿入。私は好きです。 | |||
43.8.25 | フィリップスFS1053 | ハ・ハ・ハ | 加藤ヒロシ | H.スミス/J.ヴィンセント | ランク外 | のりのりのR&Bでカナダのマウズのヒット曲のカバー。なんだか騒々しい。デキシード・ザ・エモンズと聞き比べてみましょう。 | |
フォー・ディズ・ラブ(四日の恋) | 加藤ヒロシ | 加藤ヒロシ | 緩急をつけた和製R&B。最後に挿入される口笛で一抹の寂しさが。 | ||||
43.11 | フィリップスFS1063 | 夜明けの十字架 | 加賀テツヤ | 加藤ヒロシ | 川口真 | ランク外 | トランペットを大フィーチャーしたあからさまなベトナム戦争に対する反戦歌。やや歌謡調だがメリハリの付け方が素晴らしい。ベトナム戦争で戦死したトランペッターに捧げた歌だという。 |
さよならアリババ3世 | 加藤ヒロシ | 加藤ヒロシ | 加藤ヒロシ | ファズギターを抑制しラストの爆発に備えるメルヘンチックなサイケソング。 |
他に43年3月に出たオムニバス「レッツゴー!グループ・サウンド第2集」(フィリップスFS8014)で「ロック天国」を披露。唯一英語で唄っている貴重盤である。結構アレンジに凝っている。