捻じ曲がった激情〜真のガレージとは何か

ザ・ライオンズ

The Lions

問題の一枚。デビュー盤。


 出た!最狂のGS、ザ・ライオンズ!カルトグループの帝王という名に相応しいGSは彼らしかいない。

 ザ・ライオンズは元々大阪でザ・ライダースという名前で活躍していたバンドで、ザ・ファニーズ(ザ・タイガース)が東京へ去ったあと大阪のトップジャズ喫茶ナンバ一番の看板を張っていたグループである。レパートリーは300曲を超え、ビートルズならどんな曲でも即興で演奏OKという実力派であった。そういうことだから評判も東京に伝わり、若手の有望株だと注目され、ついには42年10月東京のプロダクションにスカウトされ上京した。上京の際には何百人もの大阪でのファンが新大阪の新幹線のホームで別れを惜しんだ。「虎にも豹にも勝つもの、それは百獣の王だ」ということでザ・ライオンズの名を貰い11月には早くも都内のジャズ喫茶で活動を始めている。大物として各メディアに迎えられ、ついに東芝からデビューすることになった。デビューにあたって東芝は当時としては破格の30万円の賞金で彼らのキャンペーンポスターデザインを募集した。準備万端、昭和43年は前年のタイガースに代わり彼らが君臨するはずだったのである。43年3月10日、ついに周囲の熱いまなざしの中デビュー曲「すてきなエルザ」はベールを脱いだのだ。はげしいビートにかっこいいファズギターとからみつくオルガン、噂に違わぬ高い演奏力、そして次の瞬間であった・・・。

 まあ、そういうことでいろんな期待を込めたわりには小ヒットで終わってしまったんですな。あとはさっさと見切りをつけた東芝は企画もののシングルと投げやりなシングルを作っただけで彼らとの契約をうち切ってしまった。当然いえば当然である。だがこの人生の無駄な燃焼ぶりはアメリカの(おもにテキサス)ローカルガレージバンドに通底するものがあると思う。破滅的というものを地でいったザ・ライオンズは実に日本のカルトバンドの帝王だとつくづく思うのであります。出したシングル3枚ともレーベルが違うというのも東芝の中でのランクダウンぶりが示されている。(エキスプレスでヒットしたGSはいません。)「ルックスだけでいけると思ったのが甘かった」というのは当時のディレクターの言ですが、ルックス?

 ライオンズというと馬鹿みたいにでかい蝶ネクタイの他はボーカルの不自由具合と間抜けな合いの手だけが強調されますが、何度もいうとおり演奏は当時のトップクラスの実力がちゃんとあった。そして私はここで大胆にも彼らは歌がうまいという説を唱える。ビートルズは一人一人は美声ではないが四人集まると素晴らしいハーモニーを醸し出すのと同様、ボーカルひとりではあれだがみんなでコーラスを絡めるとはっとするところがある。「絵の中の恋人」のさびでのコーラスの絡めかたは特筆すべきものがあると思う。一見どうしようもないと思われる「よいこのゴーゴー」も演奏だけならナゲッツとかに入ってても別に変じゃありません。彼らはなまじ注目され、人気バンドになることが宿命づけられていなければ意外にもっと大きな足跡を残せたのではないかと残念で仕方がない。


パーソネル

北原克之  ベース

宇野次郎  ドラムス

三枝 孝  オルガン

島 直樹  リード・ギター

橘 健一  サイド・ギター

清原カツミ ボーカル


ディスコグラフィー

発売日 カタログ番号 タイトル 作詞 作曲 編曲 オリコン順位 備考
43.3.10 キャピトルCP1019 すてきなエルザ 藤間実 中島安敏 中島安敏 90位

0.3万枚

 めちゃめちゃかっこいいイントロから入りわくわくするが、ボーカルの音の外しっぷりとわざとやってもなかなかできない絶妙に悪いタイミング・調子で入ってくる合いの手に愕然とする。かっこいいヒット曲をという中島安敏の意図がわかるだけに出来上がってきたときの唖然とする表情が目に浮かぶ。何とかすれば何とかなる曲だけに惜しい。TOKIOあたりにまともな曲としてカバーして貰いたい。ライオンズ→「野生のエルザ」か?
信じておくれ 中島安敏 中島安敏    こっちもかっこいい曲で今普通のバンドがライブハウスとかで演奏してても全く違和感がない歌。やっぱりボーカルが気になる。
43.7.10 東芝TP2031 ハイウエイ小唄 愛川浩司 マイク山野 小谷充 ランク外  管楽器陣に振り回されている元気なゴーゴー歌謡。さびの部分の歌い方が頭悪そうでしょうがない。子供向けの詩じゃないような気がするが子供交通安全協会の企画盤としてはどうなんでしょうか。でもこの歌、俺は好きで好きで・・・。
よい子のゴーゴー 荒木たもつ 服部良一 小谷充  コンボ演奏によるビートに乗った数え歌。長いのが玉に瑕だが。戦前からのマエストロ服部良一先生の怪作。生きのいい演奏と阿呆で下手なボーカル/詩内容のギャップでバッドトリップしそう。
44.1.21 エクスプレスEP1129 絵の中の恋人 椿もとみ 椿もとみ 川口真 ランク外  バウーンバウーンとうなるイントロのギターとの印象が強いポップス。低音のコーラスがかっこよく大ヒットは無理にしてもそこそこいけそうな曲だが、ここでもボーカルがぶちこわし。作詞作曲の子門真人がかわいそうだ。
恋の十字路 福田一郎 椿もとみ 川口真  悲しみを軽くたたえたほのぼのとしたホーンの入ったバラード。平凡ならざるコーラスに彼らが実力派としてならしたことを少し思い出させるが時既に遅し。

すてきなエルザは俺カバーしたいな・・・。

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