GSの裏参道
アウト・キャスト/アダムス/ザ・ラヴ
Out Cast/Adams/The Love
大日本音楽史最大の遺産の一つ
地味なのか、派手なのか解らない活躍を見せたバンドである。確かに、リアルタイムでは彼らは派手な活躍をしたとは言えない。しかし、彼らの遺産がなければGSの再評価はもっとおくれていただろう。
アウト・キャストは渡辺プロのGS第1号。凝った編曲が多いエレキバンド「津田龍一とブルー・エース」の水谷公生、大野良二を中心に41年に結成されたバンドであり、その年のうちにGSスタイルのバンドに再編された。メンバーチェンジを経て翌年GSとしては珍しい詩曲共に自作のフォークソング「友達になろう」でデビューしたがこの曲は大ヒットには至らなかった。続く「愛することは誰でもできる」も同じ路線の曲だったがB面の「電話でいいから」は30年を経て世界中のガレージファンに知れ渡るロック・クラシックとなっている。このバンドはなかなか実力と先見性があり42年夏段階で日劇で「サイケデリックサウンド」を披露したりタイガースのトラを勤めたりした。この時期「エンピツが一本」がヒットし、以降の2枚のシングルは小ヒットに結びついた。この3枚は何れもまさにGSらしいナンバーで現在人気が高い。が一方地味な印象も拭いきれない。また、この頃に出したアルバム「君も僕も友達になろう」は世界のガレージファンのマスト・アイテムとなっている。このバンドは当初六人組であったが42年には相次いでメンバーが離脱し最後には4人組になってしまった。43年3月に解散。このバンドの主流派は渡辺プロに残り「アダムス」を結成する。大野良二ひとりが事務所から独立しアウトキャストの名前を新バンドに引き継いだが、上手くいかなかった。
アダムスはアウトキャストの正統的な後継者だが地味ということ以外は音楽的にはかなりかけ離れている。43年6月に活動を開始し、新会社(!)CBSソニーの社運をかけた第一号アーティストとして華々しくシンフォニックロックの大傑作「旧約聖書」でデビューしたがはっきり言って失敗。以降ソニーが成長したあと60年代をなかったことにしている原因となっている。同路線の「眠れる乙女」のあとGS調の「地球は狭すぎる」をはさみニューロックの「明日なき世界」を出して打ち止めとなった。アイドルを目指してメンバーを集め、セールスをしたが、実際には水谷公夫、千原秀明らのちのロック〜芸能界を支えた人物が在籍した凄腕バンドだった。なお、水谷氏は日本史上の重要人物の息子であられるが、特に本人も言及していないので詳しくは書かない。44年いっぱいで解散。こちらはGSとニューロックの橋渡しをしたグループのひとつである。
ザ・ラブもアウト・キャストの分家のひとつで「友達になろう」の作者藤田浩一が43年に結成したグループ。サクラカラーのCMに出たりテレビのレギュラーになったり結構人気があったがレコードの方は越路吹雪との競作「イカルスの星」一発で終わってしまった。44年秋には壊滅。同名のアメリカのバンドとは無関係。現在高宮氏は実業家になり、田島氏はT−BIRDというバンドで活動をしている。
どのバンドも地味だ。曲一個一個は珠玉の名曲ばかりなのに何故?「アウト・キャスト」の名の呪いか。同名の海外のグループとは無関係。バンド名はアニマルズの曲名からか。
パーソネル
アウト・キャスト(渡辺プロ時代)
水谷 淳 リード・ギター(水谷公生。元ブルー・エース、のちアダムス、スタジオミュージシャン、ディレクター、作曲家)
轟 健二 ボーカル(松崎澄夫。のちアダムス、マネージャー)
大野 良二 ベース(もとブルー・エース)
藤田 浩一 リズム・ギター(のちザ・ラヴ、芸能事務所社長。42年夏まで)
穂口 雄右 オルガン(のちオールスターズ・ワゴン、作曲家。42年秋まで)
中沢 啓光 ドラムス
アウト・キャスト(末期)
大野 良二 ベース
岡本 修 ボーカル
谷 かつみ リードギター(トニー谷の息子、のちハイソサエティ)
菅野 吉治 オルガン
朝倉 幸夫 ドラムス
アダムス
水谷 公生 リード・ギター
轟 健二 ボーカル
千原 秀明 ベース
川上 幸夫 ドラムス
土谷 守 オルガン(のち里見洋と一番星)
ザ・ラヴ
藤田 浩一 リード・ギター
高宮 雄次 ボーカル
荒井 ヒデオ ベース
木幡 ヒロシ オルガン
島田 史雄 ドラムス(のちT−BIRD)
ディスコグラフィー(変色はCD化済み)
アウト・キャスト
シングル
発売日 |
カタログ番号 |
タイトル |
作詞 |
作曲 |
編曲 |
オリコン順位・枚数 |
備考 |
42.1.25 |
テイチクSN456 |
友達になろう |
藤田浩一 |
藤田浩一 |
水谷淳 |
発足前 |
もの悲しい素朴なフォークソング。若者の心情を率直に唄う初期フォークの衝動をそのまま体現するような快作だが、いかんせん地味。 |
気ままなシェリー |
藤田浩一 |
藤田浩一 |
水谷淳 |
エレキピアノにのったポップナンバー。アマチュア的なところに好感が持てる小品。 |
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42.4 |
テイチクSN491 |
愛することは誰でもできる |
水谷淳 |
水谷淳 |
水谷淳 |
発足前 |
沈鬱なガレージパンクバラード。青年の絶望的な気持ちを切々と綴る歌詞が胸をうつ。 |
電話でいいから |
藤田浩一 |
藤田浩一 |
水谷淳 |
八方破れなガレージビートの大傑作。騒々しいことこの上ない世界に誇る日本ロック界最大の遺産。元祖パンク・ロック。ビートルズをやろうとしたものと思われる。 |
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42.7 |
テイチクSN539 |
レッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ |
藤田浩一 |
藤田浩一 |
水谷淳 |
発足前 |
ファズギターによるフィードバック音と嬌声で始まるいかにもGSなビートナンバー。若さ丸出しでよい。「レッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ」という言い方はおかしいという意見があるがもう浜辺に行ってばたばたしている話なのでこれでいいんです。 |
エンピツが一本 |
浜口庫之助 |
浜口庫之助 |
水谷淳 |
へこへこしたオルガンにのって唄われる童謡調のハマクラ作品だが、実はベトナム戦争への反戦歌。坂本九他との競作。これのヒットで首がつながった。両面ヒット。 |
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42.10.15 |
テイチクSN561 |
一日だけの恋 |
水谷淳 |
水谷淳 |
水谷淳 |
発足前 |
前作の後を追いかけるようなビートものの快作。憂いを含んだ轟健二の声とマッチして情緒がある。溜息混じりの秋の海岸。 |
僕のそばから |
水谷淳 |
水谷淳 |
水谷淳 |
ダメ男っぷりが炸裂するパンクバラードの傑作。花が無さ過ぎるのが難点。俺の中ではかなり最上位のほうに位置する。 |
|||
43.1.10 |
テイチクSN608 |
愛なき夜明け |
橋本淳 |
筒美京平 |
筒美京平 |
97位 0.2万枚 |
オーケストラを導入したビートよりの哀愁歌謡。何回聴いても歌詞の意味が分からない。しかし情緒溢れる名曲である。 |
ふたりの秘密 |
大野良二 |
大野良二 |
水谷淳 |
「僕のそばから」より二枚目的な歌詞展開をする同系統のパンクバラード。これも傑作。 |
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43.6.5 |
テイチクSN651 |
空に書いたラブレター |
松本あずさ |
リー・ポックリス |
大野良二 |
ランク外 |
サイモン・デュプリーとビッグ・サウンドのカバー(と言われてきたが実はルーフトップシンガーズ盤が元ネタらしい。)で英語の詩をそのまんま日本語にすると違和感ありありになるという見本。ガレージの範疇。ギターは水谷。 |
君を慕いて |
大野良二 |
ロス・レクニクス |
大野良二 |
渋くファズがうなる地味なナンバー。ばたばたした印象が強いが、ガレージ感は十分。 |
17センチLP
発売日 |
カタログ番号 |
タイトル |
収録曲 |
備考 |
43.6.5 |
テイチクSS264 |
アウト・キャスト・ヒット4 |
A愛なき夜明け/一日だけの恋 Bレッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ/ふたりの秘密 |
「レッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ」以降のヒットシングルを集めたミニベスト。むちゃレア。 |
LP
発売日 |
カタログ番号 |
タイトル |
収録曲 |
備考 |
42.11.10 |
テイチクSL1224 |
君も僕も友達になろう |
A一日だけの恋/エンピツが一本/I LOVE YOU/愛することは誰でもできる/のっぽのサリー/ふたりの秘密 Bレッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ/友達になろう/ビー・マイ・ベイビー/君と歩こう/エブリシングス・オール・ライト/僕のそばから |
全てのGSのアルバムの頂点に立つ大傑作アルバム。穂口のオルガンが荒れ狂い、轟が叫び、吼え、嘆く。特に「のっぽのサリー」と「エブリシングス・オール・ライト」の破壊力の凄まじさは特筆もの。「エブリシングス・・・」は参考にしたと思われるリバプール・ファイブのバージョンとの聴き比べも楽しいが、もちろんこっちの方が荒々しい。ここでしか聞けないオリジナルもいわゆるパンクバラードの佳曲であり、その他シングル曲もバージョン違いが多く収録されている。特に「友達になろう」はこっちのほうが数段出来がいい。GSに巡り会ったなら聴かないともったいない。 |
その他未発表曲「そうだよベビー」がCD化されている。オルガンが唸るもののえらいこじんまりとした地味な歌である。何故か歌唱はハーモニーというよりも応援団のようでエレキ的。また小畑ミキの一連のシングルでも彼らがバックを勤めているものがある。ほかに「ヒッピーヒッピーシェイク」、「二人の銀座」「ママをかえして」といった曲が録音されたらしいが音源は行方不明。あとブートで「君が代」「レッツゴーオンザビーチ」などを演奏したテープが出回っているらしい。
アダムス
シングル
発売日 |
カタログ番号 |
タイトル |
作詞 |
作曲 |
編曲 |
オリコン順位・枚数 |
備考 |
43.9.5 |
CBSソニーSONA15002 |
旧約聖書 |
山上路夫 |
村井邦彦 |
東海林修 |
68位 3.0万枚 |
本格的なオーケストラとコーラス隊をバックにしたシンフォニックロックで史上まれにみる壮大な歌謡商品。もしこれが大ヒットしていたら「ヒューマンルネッサンス」は彼らのものになっていただろう。 |
ギリシアの丘 |
山上路夫 |
村井邦彦 |
村井邦彦 |
エレピが闊歩する軽快なポップスだがボーカルが気だるいというか辛そう。これだけ発声法が違う。 |
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43.12.10 |
CBSソニーSONA86014 |
眠れぬ乙女 |
山上路夫 |
村井邦彦 |
東海林修 |
ランク外 |
小編成の室内楽団をバックに唄われる狂おしくも切々としたクラシカル・ロック。深夜に聞きたい。 |
砂のお城 |
山上路夫 |
村井邦彦 |
東海林修 |
とぼけたポップス。このバンドの曲の中では一番ろくでもない。玉砕したR&B。 |
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44.5 |
CBSソニーSONA86033 |
地球はせますぎる |
水谷公生 |
水谷公生 |
クニ河内 |
ランク外 |
チープな電子音から始まるビートもの。音の密度が中途半端に濃いのが惜しい。轟健二は普通に歌うとかなり頼りない音程になるところに味がある。 |
にくい時計 |
水谷公生 |
水谷公生 |
クニ河内 |
深夜に聴きたい切々としたポップスよりの歌謡曲。 |
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44.9 |
CBSソニーSONA86059 |
明日なき世界 |
北山修 |
すぎやまこういち |
すぎやまこういち |
ランク外 |
ワウ・ギターが吼えるGSとニューロックの橋渡し。メッセージソングだがインパクトが弱いのが残念。曲も単調。最後のくり返しがくどい。 |
影 |
北山修 |
すぎやまこういち |
すぎやまこういち |
地味ではあるが情緒がある泣きの入った歌謡バラード。これも真夜中のベッドが似合う歌。アダムスの中ではもっとも大衆よりの快作。こっちのほうをA面にするべきだった。 |
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不明 |
日本C.A.C.C.A.C.0001 |
アダム&イヴ |
水谷公生 |
水谷公生 |
|
ランク外 |
自主制作盤というかブート。音質は劣悪でライン取りですらなく、客席からラジカセで取ったと思われる音源。歓声に押されて演奏、歌唱とも聞き取り辛い。曲自体はタイガースの「730日目の朝」を思わせる。轟歌唱。曲後半から入ってくる女性のしゃっくりみたいな嗚咽が怖い。 |
つまんない |
水谷公生 |
水谷公生 |
|
同。これも何と歌っているのか聞き取りにくいがララバイぽいバラード。ファルセットコーラスが印象的。雰囲気としては「にくい時計」に似ている。轟だと思う。この両面につきもられすさま有難うございました。 |
他に「これが真実」「アダム&イヴ」を両面に配したフォノシート(日本C.A.C.レコードから発売)があり、「日本ロック紀GS編コンプリート」に盤面の写真が載っている。この本によれば、後者は自主制作シングルと同じ音源だが、曲調ががらりと変わってニューロック的な演奏を繰り広げる後半部分が聴けるといい、組曲方式の曲であったのではないかとの推論がなされている。
あと、ライヴの音源が出回っています。エンターテインメント性が強い司会と演奏のニューロックっぷりのギャップが興味深いけれども、もうGS時代は遥かに昔、という気がしてくる。
ザ・ラヴ
シングル
発売日 |
カタログ番号 |
タイトル |
作詞 |
作曲 |
編曲 |
オリコン順位・枚数 |
備考 |
44.3.10 |
エクスプレスEP1137 |
イカルスの星 |
岩谷時子 |
内藤法美 |
村井邦彦 |
ランク外 |
越路吹雪の夫が作った越路吹雪との競作ナンバー。一部で評判の高いポップスナンバー。越路盤とは一部歌詞違い。今はそれほどでもないが昔はかなり気に入っていた。録音には加藤和彦も参加していたらしい。 |
ワンス・アゲイン |
藤田浩一 |
藤田浩一 |
ザ・ラヴ |
A面を凌駕するサイケなギターの跋扈するフォーク・ロックの大傑作。終わり方がなかなか斬新。確かに「夢のカリフォルニア」っぽいが東芝は槇みちるの「ブルーエンジェル」とかこの手のナンバーが多い。 |