ロックの対極でほとばしるロック魂

パープル・シャドウズ

Purple Shadows

GSの異端・甘美なギターサウンドでつなぐムード歌謡とロック


 パープル・シャドウズがいなければ私はGSを聞き始めることはなかっただろう。あれは小学校6年(昭和63年)頃のことだと思うがフジ系で「懐かしのメロディー」みたいな番組をやっていて、彼らの「小さなスナック」の今で言うビデオクリップが流れた。これにどういう訳か大感動し、「栄光のグループサウンズ」というテープを購入、そこからワイルドワンズ「夕陽と共に」、ブルコメ「北国の二人」、「青い瞳」、スパイダース「フリフリ’66」、等が好きになり、そのあとはその続編でバニーズ「愛のリメンバー」、リンド「銀の鎖」、さらにカルトに流れてテリーズ「サンセット・リバーサイド」、アウトキャスト「レッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ」、ダイナマイツ「恋はもうたくさん」、ジェノバ「サハリンの灯は消えず」、カップス「ヘイ・ジョー」、ブルー・インパルス「メランコリー東京」と流れていったのである。そういう意味で自分にとってパープル・シャドウズは音楽の原風景だといえる。(ちなみにその前に好きだったのは岡晴夫、二村定一、おニャン子クラブ。みんな今でも好きだけど。)

 パープルシャドウズは40年に元々ハワイアンを志向し大橋節夫の元に出入りしていた今井久が「ザ・バーズ」というエレキバンドを組んだのが始まり。メンバーを変更しながら42年10月にこの名前に変更。この直前にビクターに出入りしている際、ホリプロ系の事務所の社長に認められた。その社長が預かっていた牧ミエコの詩に曲をつけ「小さなスナック」を完成させた(デビューの際一部補作された)。その後ドラマーをサンフラワーズから引き抜き、「小さなスナック」でフィリップスレコードからデビュー。当初は反応はなかったが都内のスナック100件をまわるキャンペーンで人気に火が付き、ついにはオリコン2位にはいる大ヒットとなった。その後も今井久のシャドウズ的な繊細なギターを中心にした曲を送り出し続けたが徐々に人気は薄れていき、ムード歌謡に傾倒するも浮上の決め手にはならなかった。46年にキャニオンに移籍したがそれで打ち止めとなった。その後もメンバーの変動を経つつこのバンドは存続して「今井久とパープル・シャドウズ」としてビクターからレコードを出したり、ギターインストのトリビュート盤に参加したりなどしている。

 このバンドはなんといっても今井久のギターに酔いしれるというのが正しい聴き方。甘美なシャドウズ調サウンドは何時までも色あせない。しかもこのバンドは一般に思われているよりビート感のある歌が多く、あのボーカルに惑わされなければグルーブのあるGSのひとつにあげられても不思議ではない。なんと言っても当時バニーズやブルコメ、カップスあたりと対バンでジャズ喫茶にたっても違和感のなかった人達である。あと後半ムード歌謡に傾倒したことで誤解が広がっているがあくまでもこのバンドが目指したのは広い意味でのスウィングコンポで、同系統のギターを中心としたイージーリスニングとしての東京ロマンチカを仮想敵とした結果ムード歌謡に言ってしまったに過ぎない。このバンドも「ロック」へ動いた時代の流れに抗しきれなかった悲劇のバンドなのである。


パーソネル

今井 久  リード・ギター

綿引則史 ギター

川合良和 ベース

大場吉雄 ドラムス(元・郷田哲也とサンフラワーズ)

岡村 右 キーボード(44年4月から)


ディスコグラフィー(変色しているのはCD化済み)

シングル

発売日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

43.3.25

フィリップスFS1042

小さなスナック

牧ミエコ

今井久

今井久

2位

47.0万枚

 衝撃的とも言える繊細なギタープレイに裏打ちされた正当派歌謡曲の大傑作。「夜」の印象よりも純愛の印象のほうが鮮烈な素朴な時代の無垢な愛物語。

パープル・スカイ

牧ミエコ

今井久

今井久・林一

 「夕焼け小焼け」の導入から始まるGS歌謡の王道を行くA面にまさるとも劣らない名曲。グルーブ感がある。

43.8.25

フィリップスFS1052

ラブ・サイン

牧ミエコ

今井久

今井久・林一

47位

4.3万枚

 フィリップスではこのバンドの楽曲のどの曲よりもつまらない凡曲。セリフがまるではなたれ小僧。

雨の星

牧ミエコ

今井久

今井久・林一

 女性スキャットが神秘的な雰囲気を与えるボサロック歌謡の佳曲。ギターサウンドとストリングスの調和が素晴らしい。

43.11.25

フィリップスFS1064

さみしがりや

なかにし礼

今井久

今井久・林一

ランク外

 「小さなスナック」の続編的作品でやや明るいが雰囲気そっくり。このバンドの曲の中では最も暖かみのある佳曲。

瞳の世界

浜口庫之助

浜口庫之助

今井久・林一

 目薬のCMソングとして制作されたか平成の御代に入ってロッテチョコレートのCMソングとして復活して深田恭子に口ずさまれた隠れたエバーグリーン。煌びやかなギターが鮮烈な印象を与えるこのバンドの最高傑作。

44.4.25

フィリップスFS1070

土曜日の午後

牧ミエコ

今井久

今井久

92位

0.7万枚

 歌謡曲っぷりを強調した詩の割にポップスに傾いた曲が聴ける。あと一歩灰汁があれば意外に売れたかも。

待ってしまうの

牧ミエコ

今井久

川口真

 奥ゆかしい穏やかないかにもB面な曲。おしゃれムード歌謡という新ジャンルを開拓できたかもしれないだけに惜しい作品。

44.11.5

フィリップスFS1100

別れても好きな人

佐々木勉

佐々木勉

渋谷毅

82位

0.5万枚

 後年ロス・インディオス&シルビアが大ヒットさせるナンバー。甘美なギターサウンドが酔わせる。しかしヒットさせるという観点から見ると渋くまとまりすぎていてロス・インディオスのバージョンの偉大さが解る。誤解されているがオリジナルは佐々木勉本人盤。

帰らぬ恋人

綿引則史 

綿引則史 

今井久

 従来のムード歌謡とひと味違う神々しさを伴うゴスペル系統のムード歌謡。

46.4

キャニオンCA45

さよならはこわくない

黒崎わたる

今井久

土持城夫

ランク外

 沖縄民謡をイントロに持ってきたムード歌謡。さびのファルセットの乗せ方が下手なので残念無念。その前に売れる要素が全くないです。

天使のいたずら

早坂真紀

今井久

土持城夫

 印象のない歌謡曲。

17センチLP

発売日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

43.12.10

フィリップスFS3029

パープル・シャドウズ・ベスト4

A小さなスナック/ラブサイン Bさみしがりや/サウンド・オブ・サイレンス

 ファーストアルバムのダイジェスト盤。

LP

発売日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

43.12.25

フィリップスFS8029

小さなスナック/パープルシャドウズ・アルバム

A小さなスナック/サウンド・オブ・サイレンス/ラブ・サイン/サルビアの夢/枯葉/パープル・スカイ/孤独の渚 Bさみしがりや/ザ・ジョーカー/ジョセフィン/銀色の浜辺/雨の星/さくらさくら/パープル・シャドウ

 ビートのあるGSとしてのパープルシャドウズが楽しめるGS屈指の名盤のひとつ。シングル曲以外のオリジナルはどれも急流のようなスリリングさがあって堪能できることしきり。特に「サルビアの夢」と「パープル・シャドウ」の急流ぶりは特筆もの。「ジョセフィン」もリズムチェンジとかでメリハリがあってついつい聞きほれる。インストものの2曲はスウィング志向が見え隠れして気高ささえ感じさせる好演。カバーでは「サウンド・オブ・サイレンス」はレンジャーズ以下の出来だが「ザ・ジョーカー」は不安定なボーカルの割におしゃれにまとまっており好感。「小さなスナック」は別バージョン。

44.11.25

フィリップスFS8062

まごころ/ロマンティック・ギター・サウンド

Aいいじゃないの幸せならば/雨に濡れた慕情/昭和ブルース/人形の家/今日からあなたと/お熱いほうがステキ/何故に二人はここに Bまごころ/悲しみは駆け足でやってくる/星空のロマンス/ローマの奇跡/山羊にひかれて/銀色の雨/別れても好きな人

 ヒット歌謡のギターインストアルバムだが実はスウィング・コンポとしての実験盤で、同じような選曲のシャープファイブが見事に転けたのと対照的。ギターは大活躍というよりも一歩引いてオーケストラとの調和を第一に考えた素晴らしい名盤。とくに「雨に濡れた慕情」が素晴らしい。「別れても好きな人」はかったるいがこっちの方が出来がいい。

46.8.25

キャニオンC1030

全国深夜放送ベスト14

Aあなたのすべてを/そっとおやすみ/涙をおふき/小さな日記/この手のひらに愛を/星に祈りを/ドゥー・ユー・ノー B小さなスナック/空に星があるように/星がふったよ/時計をとめて/甘いお話/白いブランコ/いつまでもいつまでも

このバンドがロックバンドではなく目指していたところはスイング志向の小編成ギターバンドだったことがよくわかるアルバム。冒頭の「あなたのすべてを」はいわゆるサバービア感覚満点のボサノバ調に仕上げており、このアルバムの色を提示しておって非常に見事である。その後もサックス、ビブラフォン、ストリングスなどのエクストラトラックを効果的に導入しながら、ロックという観念は全くないものの、イージーリスニング、モンドという視点から見た場合過激とも言えるほどスイートな演奏が連なっていて目が覚めるようなというかドリーミィーと言うか、イージーリスニングの深奥に達したような心地が得られる。同じ歌謡曲のイージーリスニング的エレキインスト化したものでもフィリップスで出した前作のアルバムよりも相当に出来がいい。もし「日本ロック紀」がガレージ的視点から描かれずにもっとモンド的な視点から書かれていたらこのアルバムは相当すごい評価を得られていたであろう。すごい。今井久のギターのすごさがようやくわかったような気がする。お勧め。ただ、選曲が明らかに変で、当時の深夜放送を聞いていたティーンにアンケートを取った結果だと言うけれども盟友サベージのヒット「いつまでもいつまでも」など2〜3年、或いはもっと流行に後れている。これもこのアルバムがあまり評価されていなかった原因であろう。それにしてもこのジャケットはディスカバージャパンのパロディだったのか・・・。

 この他、「レッツ・ゴー・グループサウンズ第3集」でブルーコメッツの「こころの虹」を「ヤングポップス・ベストヒット14」で「輝く星座」のカバーを披露したがどっちもどたばた。セカンドアルバム用にとられたが没になった「告白」「別れのサンバ」もCD化された。こちらはどちらも名演。

 また、後年今井久とパープルシャドウズとして「小さなスナックPART2」(ディスコメートDSF222・B面は「小さなスナック」の再録)などをリリース。「小さなスナック」を鮮やかに導入するが他の部分が全部雲に覆われている困った作品。アルバムもあり、昭和最末期には女性メンバーがいた時期もある。ほかにも師匠の大橋節夫と組んだり結構な数のレコードを出している様子。


カバース

「小さなスナック」ダウン・タウン・ブギウギ・バンド、奥村チヨ、ジミー竹内とエクサイターズ

「別れても好きな人」ロス・インディオス&シルヴィア、松平ケメ子、ニューシーズン

 

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