世界最古のパンク・バンド

ザ・レンジャーズ

(異名/ザ・レインジャーズ)

The Rangers

説明: http://korekaimashita.web.fc2.com/homepage/rangers.jpg

GSで一番美しいジャケット。中身はもっとすごい。


 GSにもいろいろあるが、ある意味頂点を極めているのがこのバンドである。それもたった1曲、たった一人のために頂点を無意識に極めてしまった、といういかにもGSらしい頂点の極め方をしたのだ。「赤く赤くハートが」。そして、宮城ひろし。全宇宙が彼の歌唱を祝福した。しかし、その祝福はすぐには聞き手であるわれわれの元には届かなかった。結局彼らは光を浴びることなく去った。だが、数十年を経た今、GSをそんなに知らない人にも、また海を越え米国にもメガトン級の破壊的歌唱の代名詞として「赤く赤くハートが」の名声は鳴り轟き、今まさにかつての祝福を頂いている。(大袈裟。)

 ザ・レンジャースは、元ルビーズの水木譲二からクラウンがGSをデビューさせたがっているということを聞いた古賀民也(ベンチャーズの代理メンバーとしてステージに立ったことがある)がこれに応え、42年6月にもともとの古賀のバンド・ブルーナイツ(元はレッド・ロースターズ。この頃は女性ドラマーだった。同名のムードコーラスグループとは別。)の4人に事務所が用意したボーカル、オルガンを加え結成された。マネージャーには水木が収まった。このボーカルというのが問題の宮城ひろしでもともとは「次郎物語」の兄役などで知られる子役だった。タップの名人でもある。ちなみにオルガンのほうは武蔵野音大生だった。ともかくこうして演奏力とアイドル性を兼ね備えたバンドとして出発し、高松で一ヶ月ほど演奏修行した。42年10月、クラウンPW品番の第一号タレントとしてクーガーズやサムライズ、バッキングをつけた泉アキらとともにデビューした。しかし、第一弾「星空の恋人」はそれなりのプロモーションにも関わらず大きな成果はあげられず、第二弾「赤く赤くハートが」は前作をやや上回るヒットとなったが、その後は尻つぼみになった。細々と全部で5枚ものシングルと企画もののアルバム1枚を出したが、メンバー脱退、交代を繰り返しジャズ喫茶での営業をしばらく続けた後昭和44年に消滅した。その後古賀はデザイナーとして数々のロックのアルバムの製作に噛んでいる。

 このバンドは、名手古賀の切れのいいエレキに戦慄の宮城のボーカルが絡みついて生み出される初期の過激な世界と、会社のオケにのった後期の真っ当なラテン歌謡による伝統的な世界が共存するという点に歪んだ魅力を感じさせる。「赤く赤くハートが」「レッツ・ゴー・レインジャーズ」のとてつもなさはもちろんだが、保守的な作品もそれが存在することによって初期の2大快曲の異常さが際立たせられていると共に、それ自体の完成度の高さが相まって奇妙な魅力を発揮している。アルバムも一般には単なるBGMということにされているが、そこには古賀のクールなギターテクニックが静かに燃え滾っていて簡単には看過できないものがある。

 なお41年ごろコロムビアからインストもののアルバムを出している「ザ・レンジャーズ」やフラワーズの前身バンドの「キャシー五月とザ・レンジャーズ」とは無関係である。


パーソネル

古賀民也 リードギター

津村雅美 サイド・ギター

仲谷武 オルガン(43年春まで)

峰あきら ベース

森本知明 ドラムス(43年秋まで)

宮城ひろし ボーカル

森下春雄 ドラムス(43年秋から・のちオリーヴ)


ディスコグラフィー(全曲CD化済み)

シングル

発売年月日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

42.10.10

クラウンPW3

星空の恋人

山口あかり

新井靖夫

高橋五郎

発足前

 早くも宮城の本領発揮のねばねばとした歌唱によって綴られる儚い恋。寂れたバンド演奏にいなたいオーケストラが被さるスローバラード。このバンドのコーラスは妙な哀愁があるが、この曲では特に効いている。

レッツ・ゴー・レインジャーズ

山口あかり

新井靖夫

古賀民也

 「勝ち抜きエレキ合戦」のテーマを意識したという戦慄のスパイサウンド。それにかぶさる萎えまくる驚愕のボーカル。最高にクールに決める演奏と激情的なボーカルのアンバランスな対比。伝説の歌になるに相応しい。ただし元々のアレンジは単なる青春歌謡だったそう。

42.11.10

クラウンPW7

赤く赤くハートが

山口あかり

新井靖夫

古賀民也

発足前

 元々は平穏なワルツのつもりで作ったが、メンバーが反発して無理矢理ロック的に作り変えたため時空に捻じれが生じ奇跡的に現れたGS屈指の名曲。混乱を極める痙攣ボーカル、地獄の底から追ってくるコーラス、実は失敗している演奏(実際オーバーダビングしたらしい。)と何一つ成功をしていない負のエネルギーを一身に背負い永遠の輝きを獲得した奇跡の大怪曲。アメリカでも認められたモンドの極み。この曲からバンド名はレンジャーズに。意外にも小ヒットしたらしい。なお、現物は確認していないが、泉アキと組んで「恋はハートで」(クラウンCMG44)という二枚組ソノシートを出しており、おそらく既発音源を使用しているのだろうが、このおかげで僅か一ヶ月でこのシングルが発売されたものと思われる。突貫工事が奇跡を生んだ。

サリーの瞳

藤代宏二

新井靖夫

古賀民也

 ミュート奏法に乗って宮城ひろしがお風呂で歌っているように気持ちよく歌い上げる中道歌謡。

43.5.1

クラウンPW26

君知るや

門杉幹二

(補)鷹たかし

門杉幹二

井上忠也

ランク外

 曲自体は大した曲ではないが、ただただ宮城の快唱によって救われている情緒に勝る純歌謡。ねばねば。

恋するたそがれ

牧伊津子

嵐一平

井上忠也

 急流なストリングスに乗って前二作よりおとなしめとは言えパンク的に悶えながら歌われる退廃歌謡。とにかく爆発的な編曲がすばらしい。

43.7.10

クラウンPW35

ミセス・ロビンソン

たかたかし

ポール・サイモン

井上忠也

ランク外

 サイモンとガーファンクルの日本語カバー。はっきりいってどうしようもない出来で、このバンドの中では最低の作品。ラテン的なクラウンオーケストラと思われる演奏で、すでにバンドのバの字も見当たらず。

サウンド・オヴ・サイレンス

星加ルミ子

ポール・サイモン

井上忠也

 同。しかし、こちらはオリジナルを上回る情緒があるGSによるカバーの大傑作である。深夜の場末の盛り場を思わせる音の寂れ方やハモり、ストリングスと惜寂感いっぱい。もともとは宮城と退団してしまったオルガンの仲谷によるデュエットが予定されていたが、代わりに古賀がデュエットしている。ところでなぜ「ヴ」?

43.10.1

クラウンPW43

星空は乙女の祈り

奥山靉

井上忠也

井上忠也

ランク外

 ソフトタッチのオルガン主戦の純歌謡。流れ星を思わせるギターと小気味いいパーカッションが幻想的な気分を盛り立てる。夜空に吸い込まれるような錯覚に襲われる精神的にはサイケな佳作。愛の永続性を歌い上げる歌詞は逆にはかない愛を強調する。

恋の足音

藤代宏二

フェルナンド渋沢

井上忠也

 心地よいスピード感を伴うGS以前の青春歌謡や後期のプレイボーイの楽曲に通じるポップス。なかなか好き。

17cmLP

発売年月日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

43.8.10

クラウンエースLW1144

(タイトルなし)

Aミセス・ロビンソン/悲しき雨音 Bアリゲイター・ブーガルー/サウンド・オヴ・サイレンス

 カバー曲を集めたミニベスト。これでしか聴けない「悲しき雨音」は妙に勢いがあるがかなりオリジナルを忠実に再現したオーケストラによるトラにのって、灰汁なくあくまでもスタンダード調に歌い上げる正統派日本語カバーの妙作。

LP

発売年月日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

43.7.1

クラウンGW43

ユア・ベスト・ポップス14

Aマサチューセッツ/アリゲイター・ブーガルー/マイ・ガール/マジカル・ミステリー・トゥア/デイ・ドリーム/待ちくたびれた日曜日/ホリデイ Bウーマン・ウーマン/パタ・パタ/雨に消えた初恋/ハロー・グッドバイ/レッツ・リブ・フォー・トゥディ/サニー/スター・コレクター

 クラウンオーケストラと共演の、当時の洋楽ヒット曲をインストでカバーしたアルバム。喫茶店でのBGM用途を意識して作られたとされている。いわゆるエレキ・サウンドを期待すると肩透かしを食らうと思うが、免疫のある人にはちゃんと聞けるアルバム。特に灰汁の強い曲が少なく、そつなくこなしているという感じが前面に出ているが、よく聞くと随所に広い意味でのギターバンド魂が感じられる。とくに「サニー」と「スター・コレクター」の出来が素晴らしい。GS/エレキ魂はわずかに「レッツ・リブ・フォー・トゥディ」に感じられるだけだが、この出来がまたよかったりする。自分には好きな曲と嫌いな曲がはっきりしているアルバム。

 このほかに初期にシングル用?として採られながら没になった「君をしのんで」と同じくLP用のインスト「ヘイ・トインキー・リー」がCD化されている。バッキングでは泉アキのデビュー曲両面すなわち「恋はハートで」「燃える年頃」を残しているが皮肉にもこれが最大のヒットとなり、泉専属のバックバンドだと思われ、逆に人気獲得の割を食ってしまった。

戻る

inserted by FC2 system