地獄の門を開いた畑違いの先駆者

ザ・サベージ

The Savage

エレキでもフォークでもGSでも何だっていいじゃねぇか。


 実際サベージ程今のGS史観の中で不遇なバンドはないのではないか。根はエレキバンドだが残した演奏には殆どその痕跡がない。フォークとしては社会への批判性がない。GSとしてはガレージでもソフトロックでもない。歌謡曲的に「変なこと」をやらかしているわけでもない。だが当時の広い意味での和製ポップスを大衆レベルにおなじみのものとしたのはブルコメ、スパに並んでこのバンドの功績は非常に大きい。では、何故これほどまでに話題にもならないのかといえば、それはこのバンドの存在というものがあまりにも現在のポップスのあり方の根幹にあるがためであろう。空気は普段あるということを意識されない。このバンドは言ってみれば空気のような存在である。ブルコメ、スパはその後GSという大きなムーブメントの中心に居続け、そのブームの伸長に身を任せ、やがてそれ故に輝きを獲得し、やがて滅亡した。翻ってこのバンドを考えると、終わりかけのエレキブームの中からアマチュアバンドとしてシーンに登場し、刹那的なフォークブームの中相容れない(と思われていた)エレキ編成で向き合い(これは成功したのだが)、爆発的なGSブームの中では居場所を喪失し67年いっぱいでメジャーシーンから降壇する。そこにはいつも居心地の悪さが同居している。自分たちは「歌うこと」こそ最も忌むべきエレキバンドではないか。その我々がなぜインストものをやれずにノレもしないフォークなんぞせないかんのか。何故ギターの音なんか気にもしないアーパーの前で演奏せないかんのか。そういった想いが彼らの上にのしかかっていったはずである。だが、彼らの活動は結果的に現在の「Jpop」といわれるものの全てを一通りやってしまった。そして現在の「Jpop」の音楽家の表現は彼らの活動の上に何かが足されることがあっても引かれることはない。基本中の基本。そこが未来から見た彼らの「独自のもの」である。あまりにも音楽の中枢にあるがゆえに語られない。伝説になる人やバンド。それは常に異端である。歌が上手い、演奏が新しい、何だかわからないけどすごい、そういうのは普通と比べてその部分について異端だからこそそう言えるのである。このバンドは異端たるべき所が何もない。だが忘れてはいけない。このバンドの登場したときのことを。その時点では彼らは異端中の異端だった。その異端が天下を取り、しかも滅亡後模倣されながら畏敬ではなく無視されたからこそ、その系譜にあるすべての音楽の普遍として空気的に存在として無視され続けられたのだ。つまり彼らは「存在として語られない」ほど偉大であったのだ。サベージを知ることはすなわち「Jpop」とは何かという知的冒険の出発点である。

 サベージは日大生だった奥島吉雄を中心に結成されたエレキバンドで、バンド名のとおりシャドウズなどをカバーし、学生パーティーなどを中心に活躍していた。やがて大学卒業記念ということで「勝ち抜きエレキ合戦」に出場、確実なテクニックとともにベンチャーズ一辺倒だった当時のエレキシーンの中でシャドウズ調の北欧系のサウンドが物珍しかった事も手伝って優勝、続いて「世界へ飛び出せニューエレキサウンド」でも優勝し、賞品としてロンドンレコーディングも行われた。(が、この音源は行方不明。)彼らの圧倒的な勢いに注目したホリプロは41年に上潮のフォークブームに託けて新鋭の佐々木勉の楽曲「いつまでもいつまでも」を彼らにあてがい、予想通りの大ヒットとなった。続いて第二弾「この手のひらに愛を」もヒットし、アルバムも製作された。しかし、このあと中心メンバーだった寺尾と林が脱退・交代。その後もシャドウズ日本公演の前座を務めたり、堅いヒットを飛ばしてはいたが徐々に勢いはなくなっていき、ついに42年10月の「哀愁の湖」(これもヒットしたのにもかかわらず)で打ち止めとなった。その後オリジナルメンバーが一掃されてしまったが名前だけは受け継がれ、何とかGS末期まで活動していた。しかし、その間ついぞメジャーからのレコードはリリースされなかった。なお、49年に奥島を中心に再結成されポリドールから少なくとも二枚のシングルを出している。

 サベージははっきりいって大ヒットした2曲は糞だが、それ以外のシングルA面のなんともいえない暗さと、お家芸のエレキインストの耽美さが何といっても素晴らしい。また、涼風吹き抜けるカレッジフォーク調のアルバム収録曲も始めからそういうものだと思って聴くとなんともいいように聞こえるような気がする。これと一曲をあげる事は中々難しいが全体的な素朴さと、インストにおけるそれに反抗したもがくように鋭いギターの対比を楽しむのがいいと思う。


パーソネル

林廉吉 リードギター、ボーカル のちザ・ホワイト・キックス(42年はじめまで)

寺尾聡 ベース、ボーカル のちザ・ホワイト・キックス、現・寺尾總(42年はじめまで)

奥島吉雄 リズムギター、ボーカル のちサウンド・ヴォックス

渡辺純一 ドラム

渡辺昌宏 リード・ギター 元東京ベンチャーズ(41年11月から)


ディスコグラフィー(変色しているのはCD化済み)

シングル

発売年月日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

41.7.1

フィリップスSFL1058

いつまでもいつまでも

佐々木勉

佐々木勉

ザ・サベージ/林一

発足前

 加山雄三の「君といつまでも」や第一次フォークブームを当て込んだ三連フォークバラード。目論見どおり大ヒット。当時としてはアマチュアっぽさが新鮮だったが今の目で見るとただただ甘ったるいだけ。ストリングス入り。

恋の散歩道

寺尾聡

寺尾聡

 

 自分たちのやりたいことと商業的戦略の折衷をつけたと思われる寺尾作のシャドウズ的サウンドがさわやかで穏やかなフォーク・ロック。

41.10.15

フィリップスFS1010

この手のひらに愛を

利根常昭

利根常昭

利根常昭

発足前

 完全に前作を踏襲したストリングス入り三連フォークバラード。より甘い。これも大ヒット。この曲をあそこまで凶暴に解体したブルコメは偉い。

星のささやき

佐々木勉

佐々木勉

 

 特徴のないポップス。出来不出来の激しいサベージの中でも特にしょうもない歌。

42.2.15

フィリップスFS1012

夜空に夢を

佐々木勉

佐々木勉

林一

発足前

 勢いのあるスペースロック。「スペイスエクスプレス」の続編のような歌もの。水を得たような息のいい演奏に戦慄のストリングスが絡むこのバンドのロック魂がよくわかる作品。ただ歌(特に寺尾)がフォーク発想の歌唱法なのがマイナス。

明日に向って

松宮庄一郎

松宮庄一郎

林一

 わかっちゃいるけど結構落胆させられる如何でもいい甘ったるいフォークロック曲。演奏自体は軽快。

42.6.1

フィリップスFS1017

渚に消えた恋

佐々木勉

佐々木勉

林一

発足前

 やたら暗く始まる纏まった典型的GS歌謡。さびの開放感が爽快で暗さと(一抹の)明るさのバランスがよく取れており、またキャッチーなメロディーやよく練られたエキストラトラックもあいまった絶妙の曲。

青い海と白いヨット

佐々木勉

渡辺昌宏

 

 スチールギターと口笛で幕をあけるあっさりとした湘南サウンド。ビートはあるが押しが弱く、印象にあまり残らない歌。さくさくと進む。

42.10.5

フィリップスFS1026

哀愁の湖

佐々木勉

佐々木勉

林一

発足前

 その名のとおり哀愁をたたえたキャッチーな典型的GSサウンド。情熱が前に出た狂おしいことこの上ないこのバンドの最高傑作。控えめな透明感の溢れるギターやヤケクソなさびのドラム、また、何より泣ける歌詞が素晴らしい。

ばらの香り

佐川ミサ

奥島吉雄

林一

 バイオリン奏法?で始まる如何でもいいバラード。しかしこのバンドのB面はGSには珍しくスカばっかりだな。

44.

番号なし

若い我等の八福会

 

 

 

ランク外

未聴。全く新しいメンバーによる「藤島サトルとザ・サべージ」名義の自主制作盤。藤島サトルはかつてザ・シャドウズで活躍していたギタリストと同一人物だろう。

八福会音頭

 

 

 

未聴。同。

 他に前述の通り、49年に再結成もののシングルが少なくとも二枚(「恋愛特急/謎の恋人」「ロング・グッドバイ/そして誰もいなかった」)ポリドールから出ているが、GSでもエレキでもない、アダルトポップスである。

17cmLP

発売日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

41.11.15

フィリップスFS1026

想い出の丘

A想い出の丘/涙をふいて B風よ風よ/スペイス・エクスプレス

 ファーストアルバムのシングルカットされていない曲を集めたダイジェスト。

アルバム

発売日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

41.11.15

フィリップスFS5003

この手のひらに愛を/ザ・サベージ・アルバムNo.1

Aいつまでもいつまでも/風よ風よ/想い出の丘/みんな昔/トニー/恋の散歩道 Bこの手のひらに愛を/涙をふいて/遠い夢/星のささやき/遠くはなれていても/スペイス・エクスプレス

 全曲オリジナルで固めたアルバム。歌ものはフォークロック路線の歌ばかりでメリハリがあまりない。その中では筒美京平が初めて自分の名前をクレジットされた「涙をふいて」が注目されるが、大した歌ではない。また「遠い夢」は1950年代的な感覚のムード楽団の演奏ものに歌をつけたような沈鬱な三連バラード。その代わりにお家芸のインストではこれがやりたかったとばかりに好演。シャドウズ調の「トニー」も名演だが何といっても和製エレキ曲屈指の名曲、和製スペースロックの魁「スペイス・エクスプレス」の素晴らしさ。これ一曲の為だけにあるアルバムといってもいいくらいだ

42.3.1

フィリップスFS5010

ゴー!スパイダース、フライ!サベージ

A(ザ・スパイダースの楽曲) B夜空に夢を/さよならコペンハーゲン/空は僕たちのもの/フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン/紅の翼/明日に向って

 日航世界一周路線開設記念で企画されたスパイダースとのミーツ・アルバム。「空は僕たちのもの」はシングル以外では唯一の歌ものだが、無垢なフォークロック路線が唯一うまくいった佳曲。夜空を仰いでいるような感覚に襲われる。スプートニクス調インスト「さよならコペンハーゲン」の出来がとにかくよい。好きなようにエレキバンド路線のアルバムの一枚二枚作ってほしかったところだ。「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」も負けず劣らずの名演で他の日本のエレキバンドとの発想の違いが最もよく現れており面白い。「紅の翼」もお手の物。

 この他この時期フィリップスから乱発されたGSコンピアルバム「レッツゴー!グループサウンド」の第一集から第三集(番号はそれぞれフィリップスFS8011、同8014、同、8016)にかけて夫々「バラ色の雲」(収録17cmLPもある)、「サマーワイン」、「好きだから」を吹き込んでいる。「サマーワイン」は壷がよく抑えられた唯一サべージの英語が聞ける好演だが、ヴィレッジシンガーズのカバー二曲の出来ははっきり言わなくてもよくない。(第一集にはオリジナル曲2曲も収録。)また、解散後出たオムニバス「若者たち/スタンダード・フォーク・ベスト4」で「いつまでもいつまでも」の原録音バージョンが聞けるが、ちょっとへなへなしていてオーケストラ被せてみようと思うのも無理もないようなそんな出来。このほか来歴不明だが「霧のカレリア」「ボサルー」「サベージ」を収録したテープがあるようなので他にもまだ復刻されていない音源があるものと思われる。

 また、CD「メラメラメラ」では映画音源の「スペイス・エクスプレス」が聞ける。

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