モンドなリゾート・エキゾ・ジャズ・ロック・バンド

ミッキー・カーチスとザ・サムライズ
(異称:サムライ)

Micky Cartis & The Samurais
Samurai)


極めて異端。


 グループサウンズって何よ、と問われたときに音楽の傾向までは定義できても、厳密なジャンルとして定義付けが難しい原因になっているバンドの一つである。ガレージでもフォーク・ロックでもソフトロックでもバラード歌謡でもエレキでもなく、それじゃあといって純然たるジャズバンド、ラテンバンド、ハワイアンバンドとも言えず、ましてやムードコーラスでもカレッジフォークでも単なるコーラスグループでもないという、非常に困った位置にいるバンドである。もっとも、本人たちはジャズ・ラテン・カンツォーネの方を向いており、自分たちがGSだとは全然思っていなかったらしい。とはいえ、そのサウンドは魑魅魍魎が跋扈するようないかがわしいものではなく、現在から見ればエキゾ/モンドとして高く評価できる(あ、いかがわしいか。)所謂サバービアサウンドとなっており、その完成度は極めて高い。

 このバンドは、ロカビリー三人男の一角として人気を博していたミッキー・カーチスのバック・バンドであるシティ・クローズの後継バンドで、当時、ミッキーとともに東南アジアで営業活動していたヴァンガーズが、42年2月に帰朝した際、サムライに改名して誕生した。テレビで披露したオリジナルの「風船」が評判となり、この曲でクラウンから同10月にデビュー。泉アキやクーガーズ、レインジャーズらと同時に売り出されたため、結果同じくくりにされてしまったことは否めない。この時、会社に勝手に「ミッキー・カーチスとザ・サムライズ」とクレジットされてしまい、以後この名前を使用した。同時期にミュージカラーからもカンツォーネのインストアルバムもリリースしたが、これも「ミッキー・カーチスとザ・サムライズ」名義である。「風船」は小ヒットにこぎつけられたが、翌月には既にバンドは日本での活動を殆どしないまま欧羅巴に本拠地を移しており、全くフォローがないまま終った。二枚目の「太陽のパタヤ」に至ってはリリースされたことすら本人たちは知らずにいたという。欧羅巴ではメンバーを入れ替えつつ、丁髷に陣羽織という出で立ちで放浪のような形で演奏活動をし、現地発売のシングルを出したり、ロンドン録音で日本向けのシングルを作ったりしていたが、最終的には食うにも事欠く生活となり、45年夏には帰国した。なお、英国でのプロモーションフィルムらしきものが残されており、その中で英語のオリジナル曲(?)とソーラン節を演奏している。前者はかなりかっこいいが、後者は口パクなうえにドリフターズを彷彿とさせるドタバタぶり。帰国後はサムライとして、日本のプログレッシブ・ロックのはしりのような活動をし、数枚のレコードをリリースした。現在その筋では高い評価を得ているが、商業的に成功したとは言い難い。結局46年夏を前に解散してしまった。解散後、山内は再び渡欧しドイツのバンドであるフリーに加入するなどして高い評価を得た。

 サムライズのサウンドは、シティクローズ以来のエキゾ精神が貫かれた、ピアノとサックスを中心に添えたホテルのラウンジなどでのBMGを志向したようなものであり、所謂GSサウンドとはかけ離れたものである。彼らの存在はGSが一筋縄ではいかないことの象徴となっており、まったり、お洒落というものをそのまま体現したような見事なジャズロックとして一際異彩を放っている。


パーソネル

(サムライズ時代)

ミッキー・カーチス ボーカル

ヒロ・イズミ ギター

山本五郎 ベース

冬梅邦光 サックス(元・寺内タケシとブルージーンズ、のち・リッキー&960ポンド)

菊地牙 ピアノ

豊澄芳三郎 ドラムス

(サムライ時代)

ミッキー・カーチス ボーカル

山内哲夫 ベース(元・マイクス、のち・フリー、フェイシズ)

原田裕臣 ドラムス(のち・PYG、井上堯之バンド)

ジョン・レッドフォーン キーボード

ジョー・ダーネット ギター


ディスコグラフィー(変色しているのはCD化済)

シングル

発売日

レコード番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位/枚数

備考

42.10.10

クラウンPW5

風船

ミッキー・カーチス

伊勢昌之

 

発足前

 基本的にはフォークの線だが、そこにとどまらず、英サイケをアレンジして取り入れており、ソフティシケイトされたお洒落なアコースティックナンバーに仕上げている。まるでやさしい朝の光に包まれているかのような気分にさせられるグッド・ジェントル・サウンド。所謂歌謡の湿り気とは別の湿り気が支配する唯一無二の音空間が胸に染み入る。けして上手くないたどたどしいボーカルもいい方に作用している、計算され尽くした名曲。

雨のプロムナード

サミー上田

三保敬太郎

 

 冬梅のサックスが屋台骨を支えるジャズ発想のシックなスタンダード調ポップス。当時の日本でこのサウンド・メイクでありながらムード歌謡にならず、あくまでもお洒落でさり気ないジャズポップスに仕上がっているのは驚異のひとこと。この時代の大都会の大人の夜の一こまを幻想的に描き出す名曲中の名曲。

43.4.1

クラウンPW16

太陽のパタヤ

ミッキー・カーチス

ヒロ・イズミ

 

ランク外

 冬梅のサックスと菊地のピアノに彩られた、趣味のいいまったりとした南国エキゾ・ナンバー。かつてのホームであるタイ・パタヤビーチをテーマにしている。全編スキャットだが、その悲しいまでに美しい長閑さが良く伝わってくる好ナンバー。メンバーに無断とは言え、これをシングルA面で発売させたディレクターも凄い。

夏の夢

ミッキー・カーチス

ヒロ・イズミ

 

 さりげなくもムーディーなスローボサノバ。何故か後半はポルトガル語?で歌われる。落ち着き払った大人のサウンド。

44.5

ロンドンIT1609

グッド・モーニング・スターシャイン

 

 

 

ランク外

未聴。ロンドン録音の「ヘアー」ナンバー。

金閣寺

 

 

 

未聴。

46.3

フィリップスFS1190

ビジョン

 

 

 

ランク外

未聴。

セイム・オールド・リーズン

 

 

 

未聴。

46.4

フィリップスFS1191

ミッキーと歌おう ハレ・クリシュナ

ミッキー・カーチス

ミッキー・カーチス

ミッキー・カーチス/鈴木邦彦

ランク外

 またもや「ヘアー」ナンバーだが、原曲のドラッキーな編曲から遠く離れたボサノバ・アレンジに驚愕。果敢に挑戦というレベルを超えて一連の鈴木邦彦作品らしい清々しさを帯びて違和感なく完成している。ミッキー・カーチスのソロ名義。

誰だった

ミッキー・カーチス

ミッキー・カーチス

ミッキー・カーチス/鈴木邦彦

 フルートで始まる穏やかな沖縄民謡風サイケポップ。ジャックスに通じるひんやりとした肌触り。

(海外発売シングル)

44.?

伊・ユナイテッドアーティストUA3138

シュシュ

ウォーカー

トゥブス

 

香川県民謡「金比羅ふねふね」をロックにしたもの。ワウワウギターを中心としたポップな演奏で能天気さが漂うが、GSと言うよりは完全にニューロックバンドの音。終奏には大正琴も挿入され、エキゾを狙う。全体に英詩だが、間奏で英語と日本語で台詞のやり取りが入るのもエキゾの狙いだろう。ファーラウトの演奏がリード楽器を除けばかなり忠実なリテイクだったことが判る。

フレッシュ・ホット・ブリーズ・オブ・サマー

ヒロ

ウォーカー 

 

尺八とシタールを使ってオリエンタルな味に仕上げたビートポップス。こちらにも陰鬱さはなく曲がりなりにも60年代の楽曲らしく、ハッピーさが漂うが、一方で非常にクールな印象も受ける完成度の高い曲。バニーズの「サウス・ピア」あたりに通じるメロディーではある。

 他にロンドンIT1609と同内容のシングルを英国で発売している。また、当時の所属事務所(アスカ・プロ)が作った海外向けプロモート盤「ゲット・リッド・オブ・ミー・ベイビー」/「フレッシュ・ホット・ブリーズ・オブ・サマー」(アスカAP1001)があり、A面はモッド時代のブルコメ+ゾンビーズといった趣のダンサブルなジャズっぽい曲だという。B面は上と同じ曲だろう。

LP

発売日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

42.10

ミュージカラーML3007

愛のテナーサックス

Aチャオ・チャオ・バンビーナ/この胸のときめきを/ローマよ今夜はふざけないで/モア/生命かけて/アル・ディ・ラ Bクアンド・クアンド・クアンド/アモーレ・スクーザミ/ただひたすらに/コメ・スタセラ・マイ/もしも明日/アリベデルチ・ローマ

 横尾忠則による女性のヌード写真を盤面に刷り込んだ、当時良くあった所謂ムード音楽の類のアルバム。ちなみに、インテリアに使えるように、ジャケットの真ん中がくり抜かれ、盤面がみられるようにした立てられる仕組みのジャケットになっている。なお、別に男の頭頂部をいくつも書いたバージョンのピクチュアディスクもあるが、内容は同じ。冬梅のサックスを中心にしたカンツォーネのインストアルバムで、エレキでも、GSでもなく、まるっきり軽音楽の楽団による演奏にしか聞こえない。はじめから楽団ものとして聴くと、良くできたモンドアルバムだと思うが。そう言うことで攻撃的な楽曲というようなものは皆無。ロックの色は殆どというか全くないといっても過言ではない。全般的には穏やかなホテルのラウンジ用BGMに相応しいイージーリスニング色が極めて強いアルバムで、楽曲も粒が揃ったお洒落なものが多いが、軽いコーラスも被さる「モア」がメリハリの付け方などが上手く情緒に訴えており、最も出来がよいと思われる。

46.3

フィリップスFX8511

河童

Aトラウマ/セイム・オールド・リーズン/誰だった/ビジョン・オブ・トゥマロウ Bキング・リーフ&スノー・フレイクス

未聴。沖縄音楽からハードロックまで貪欲に各種の音楽を取り入れ、大作も擁したプログレアルバムとのこと。

46.8

フィリップスFX8517

Aグリーン・ティー/イーグルズ・アイ/ボーイ・ウィズ・ア・ガン/18世紀 Bフォア・シーズンズ/マンダレイ/ダフィ・ドレイク

未聴。モンドの精神を保ったままプログレ路線に挑戦したアルバムとのこと。英、独で発売された二枚組のアルバムを編集したもので、解散後のリリースとなった。

その他の音源 未発表であった「夏の夢」のイタリア語バージョン、英語バージョンがCD化されているが、おそらくオケは同じでボーカル、コーラスのみ吹き込んだものだろう。「昭和元禄トーキョーガレージ徳間ジャパン&日本クラウン編《恋のサイケデリック》」(徳間TKCA72966)で聞ける。

カバース

「風船」中村洋子

「シュシュ」ピンキーとフェラス、ファーラウト

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