太陽の貴公子

ザ・サニー・ファイブ

The Sunny Five


↑あんまりな画像なんでそのうち差し替えます。


 ビクターは、その洋楽系子レーベルであったフィリップスにはスパイダースはじめ人気バンドをずらりと取り揃えていたが、その本塁にはかつてスウィング・ウエストと旧ジャイアンツらがいたとはいえ、42年中盤には僅かにトニーズを残すのみであった。しかし、世はまさにGSブーム。ビクターの邦楽部門でも流れに乗り遅れまいと、ようやく42年11月に一挙に実力派3GSを売り出す計画を実行することとなった。これは結局のところたまたま同時期に3つの事務所からそれぞれGSの売り込みがあったからという実も蓋もない裏舞台があったが、この突然のGS保護はこの数年後にフィリップスがフォノグラムとして別会社になるということに対するビクター側の布石であったとも思われる。ともかく、この時ビクター3大ポップス・サウンドとして一緒にキャンペーンを張ったのはザ・モップス、ザ・ダイナマイツ、そしてこのザ・サニー・ファイブであった。(サンフラワーズもまとめられてたりすることもあったが。)

 サニー・ファイブはリンド&リンダースをおん出た高木和来が当時在籍していた同志社大生や一緒にリンドを罷めた迎修二らとともに42年8月に結成したバンド。上で書いた通りビクターのGSキャンペーンによっていい時期にデビューした。ちなみにこの時のキャッチフレーズが「太陽の貴公子」である。関西ではもとリンドのメンバーが作ったこともあり、まあまあそれなりに知名度もあったが、関東ではほとんど無名に終わってしまった。戦友であるモップスがサイケ、ダイナマイツがR&Bをその高い実力で強烈に推し進めたのに対し、彼らは正統派のブルコメタイプのバンドを狙っていた(若しくは狙わされた)こともあり、その実力を正当に評価し辛い歌謡曲/フォーク路線を押し通した。このため、前二バンド程の評価を玄人筋から得ることもなく、ルックス面も弱くミーハー人気も取れなかった。結局デビュー曲「太陽のジュディー」が小ヒットしたものの3枚のシングルを残しただけで轟沈してしまった。のちのカルトGS再評価でもいわゆるGSの正統派ゆえにまるで無視されてしまった。なお、高木はすぐにジ・エスカレーションというバンドを結成し、44年8月にRCAからデビューしている。

 このバンドは前述のとおり営業戦略で「普通のGS」路線というGS再発見の中でも無視されてきた路線を走り、一緒にデビューした連中が濃すぎたこともあり今日に至るまでまったく評価されていない。しかし、GSの中にガレージロックやソフトロック、クラシカルロック、ムードコーラスなどを見出す時代であるだけにいわゆる典型的なGSの音とはどんなものだったのかを知るのに最適であるし、実際ピュアGSとでもいうべき視点で見るとその実力の高さや楽曲の良さ等が再発見できるだろう。なお、このバンドを当時実際に見たことのある前の職場の人によると「結構上手かった」とのことです。(この人のバンドは「全関西ロックバンドコンテスト」でファニーズが優勝したときに3位になったそうな。)


パーソネル

高木和来 リード・ギター(もとザ・リンド&リンダース、のちジ・エスカレーション)

迎修二 ボーカル(もとザ・リンド&リンダース)

中輝彦 ボーカル、ベース

武田信平 ボーカル・サイドギター

三浦和男 ドラムス(「太陽のジュディー」まで)

サンダー永野 ドラムス(「白鳥のバラード」から)


ディスコグラフィー(全曲CD化済)

発売日 カタログ番号 タイトル 作詞 作曲 編曲 オリコン順位 備考
42.11.10 ビクターVP3 太陽のジュディー 岩谷時子 いずみたく   発足前  サックスをフィーチャーした、いかにもいずみたくらしいフォーク発想のマイナービートポップス。やや重め。ドラムの音もやたらに目立つ。歌詞も狂おしく、メロもよく出来た売れ線の歌だが、ボーカルが歌い切れていないのが惜しい。
涙のファースト・ラブ 岩谷時子 いずみたく    電子ハモニカと思われる音で始まる哀愁のビートポップス。こちらの方がよりGS的。メリハリのしっかりついている売れ線狙いのバラードでA面よりも出来がいい。ことオルガンの音がGS情緒満点。このバンドには珍しく歌唱も歯切れよい。一応彼らで一番好きな曲。
43.4.5 ビクターVP7 白鳥のバラード 山上路夫 いずみたく   ランク外  メンバーだけによる演奏に乗せた少女趣味の歌謡曲。幻想的で悲劇的な御涙頂戴ものの歌詞は素直に泣ける。この時期の迷信である「ドラムソロから始まる曲は売れる」に則った売れ線狙いの歌だが、ギターなどにこのバンドの実力が垣間見ることができる。こう聞くとやっぱり演奏が上手い。音の隙間にもっとガレージっぽいのをやればよかったのにという口惜しさが広がること請け合い。
花のような少女 山上路夫 いずみたく    「ラ・バンバ」あたりを想定して作ったと思われるフラワー調ポップス。アレンジがなんとも惜しい。メリハリやビートは利いているが、もうちょっと演奏にガッツがあればもう少しこのバンドの評価を上げたかもしれない。もっとも、音がスタジオミュージシャンっぽいので本人たちが演奏してないのかもしれないが。いずれにしてもちゃんといずみたくの曲になっているのがすごい。
43.8.5 ビクターVP11 想い出の京都 岩谷時子 いずみたく   ランク外  いくらなんでもな「マサチューセッツ」もの。アレンジそのまま。望郷する内容の歌詞の発想まで全く同じ。だが妙な日本情緒があり、それがまた曲にマッチしているため、一層反発を煽る。それにしても京都に湖なんてないぞ。不安定なボーカルとコーラスが激しく腰を折る。
夜明けまで踊ろう 岩谷時子 いずみたく    よく出来た軽いダンスもの。ストリングスが複雑に絡みつくフラワーポップスの系譜。これもビージーズの影響がかなり強い。ボーカルが薄いのがここでも足を引っ張るが、純粋に曲だけ聞けば中庸な歌謡曲としてはかなりレベルが高く、はっきり言ってA面よりもこっちの方が出来がいい。どの曲も売れ線狙いなのが痛いほどよくわかるが、どの曲にしてもおそろしく花がないのが痛恨。

 ほかに関西方面でラジオオンエアされた「白鳥のバラード」のオーケストラ入りバージョンがCD化されている。もたっているところはあるが「月光」をベースにしたクラシカ調の完成度の高いトラで、どうして差し替えられたのかよくわからない。

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