テケテケエレキをぶちかます武骨な創価学会員バンド

ザ・シルヴィ・フォックス

The Silvey Fox

(東京ベンチャーズ:Tokyo Ventures)


スゲェの一言。


 私は創価学会の会員ではないので、人によっては気分を害される方もあるかもしれないので先に断っておきます。

 このバンドは、シャープファイブとともに「勝ち抜きエレキ合戦」の模範演奏者になったり「エキサイトショー」の準レギュラーとして活躍していた東京ベンチャーズというバンドがGSになったもの。東京ベンチャーズ自体の結成は昭和40年だが、その年11月にはミノルフォンから4曲入りのコンパクト盤「軍艦行進曲」をリリースした。これが2曲は「演奏だけで笑わせてしまうのだからすごい」と評される怒涛のテケテケエレキインスト、そして残りの2曲が演歌的発想で見事にブリティッシュサウンドを消化したことになっているがどう考えてもそれとは違う孤高のものになっているボーカルものだったから凄過ぎる。「プレイボーイ」誌で仏教とロックを結びつける異色のバンドという特集があったりしたようなので、いずれにしても創価学会員であることは一種の売りではあったようだ。その後本格的にGS化し、一部メンバーを入れ替え「ザ・シルビー・フォックス」と改名した。どうでもいいが、この時のメンバーの改名は幾らなんでもあんまりだと思う。42年11月、当時のミノルフォン社長・遠藤実自らが作曲したドエレキガレージ楽曲「風がさらった恋人」で再デビュー。しかし、世間の注目を浴びることはなく、全部で三枚のシングルを出したあと、44年にはメンバー総とっかえの挙句壊滅した。結構仕事場が偏っていたようだ。ドラムの山本(すごい名前だな、このひと。)はのちによしみかどうか寺内タケシとブルージーンズのドラムになった。なお、現在「東京ベンチャーズ」を名乗るバンドがあるが、これとは無関係。

 このバンドは前身バンドを含めてとにかくエレキ色がやたらに強いのが特徴で、もうGSも飽和期というところまでテケテケ奏法を放棄しなかったり、まさにエレキ歌謡としか言いようのないボーカルを抱えていたりするのが武骨と言うか、流行に疎いというか・・・まあ、それがいいほうに出ているからいいか。ミノルフォンというレーベルのせいでもあるのだが、予算の関係で(?)ノンオーケストラで押し通したり、異常に寂れた録音だったりするのが、非常に音を貧乏くさくしており、海外の地方のガレージバンドに結構通底するものがあると思う。特に「アイ・ラヴ・ユー」にはそれが強く滲み出ているが、悲しいかな誰も評価している人はいないみたいだ。


パーソネル

東京ベンチャーズ

本山智明 ボーカル

近藤正邦(ノーキー近藤) リードギター(途中脱退)

古川かおる ドラムス

清水秀男 サイド・ギター

足立馨 ベース

三好純 サイド・ギター、ボーカル

 

渡辺昌宏 ギター(もとスペイスメン、のちサべージ)

 

ザ・シルヴィ・フォックス

ダン清水 リード・ギター(=清水秀男)

ピート七福 ボーカル(=本山智明)

ヴァビー長谷 ボーカル

三好純 オルガン、ボーカル

ボブ安立 ベース(=足立馨)

山本進一 ドラムス


ディスコグラフィー(全曲CD化済み)

東京ベンチャーズ

17cmLP

発売日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

41.11.25

ミノルフォン KA5005

軍艦行進曲

A軍艦行進曲/あゝ紅の血は燃ゆる B戦友/九段の母

エレキによる軍歌のカバー。インストの「軍艦」は基本的にスプートニクスを下敷きにした演奏だが、ブルージーンズもぶっ飛ぶテケテケ振り。聞いているだけで嬉しくなってくる、いとおしい演奏。続く「あゝ紅の血は燃ゆる」も同じくスプートニクス調の演奏だが、演歌臭いというほどでもなく、かといってポップス的でもない独自の世界を構築しているボーカルと破綻したハミングが印象的。「戦友」はインストだが、これがまたすざまじい弾き倒しっぷりで、特に最後の一丸となった暴走振りは「ゴールデンギター」や「空飛ぶギター」にも決して引けを取らない、日本エレキ史の一ページに刻むべき大傑作。「九段の母」も壮悲が一塵も感じられない程のボーカルの湯加減ぶりがある種とんでもない所に到達している。それにしてもベンチャーズ的なフィーリングは皆無で名が体を表さないバンドだ。

ザ・シルヴィ・フォックス

EP

発売日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

42.11.10

ミノルフォン KA167

風がさらった恋人

稲葉爽秋

遠藤実

 

ランク外

 痛快なエレキ歌謡。寂れた録音にのっけから響き渡るテケテケ!美樹克彦を薄くしたような泣きのボーカル!間奏での叫びとそれに呼応するエレキ!ヒットを狙うには素っ頓狂だが紛れもないGSの名曲中の名曲。

思い出が泣いている

幸田栄

遠藤実

 

 昭和30年代の夜の路地裏を想起させる、寂れすぎて過疎になったような退廃的なバラード。一応ビートあり。ところで一番の「姿をけして行こう」とはどういう意味なのか。泣きのボーカルがグッドだが基本的には埋め草だな。

43.2

ミノルフォン KA179

レッツ・ゴー・ミリタリー・ルック

幸田栄

只野通泰

 

ランク外

 「軍隊行進曲」の導入から始まるこのバンドでもっともGSらしい名曲。相変わらずテケテケいっているが、それが珍しく脇役に聞こえる。当時の風俗を話題にし、恋を戦争に喩えながらも結局集団交際を進めているのが宗教系バンドっぽくていかにも。聴く人が聴くと結構不思議な展開をしてるらしいが私ゃよくわからん。

流れておいで流れ星

幸田栄

只野通泰

 

 オルガンが東北の山道に連れて行ってくれる、とにかく暗くて貧乏でじめっとした、それでいてやさぐれている、一世代古い発想のバラード。タイトルがくどい。

43.6

ミノルフォン KA207

銀色の雨

幸田栄

清水英夫

足立義史 

ランク外

 前作B面と同じような始まり方をする埋め草っぽいオルガンビートバラード。

アイ・ラブ・ユー

稲葉爽秋

只野通泰

 

 いわゆるパンクバラード。胸に迫ってくる演奏、感情が過不足なく込められたこの路線ではGS屈指の名曲。さびでのギター乱れうちや全体を支配するオルガンの音色、基本的にユニゾンで押すコーラスなど、何もかもに情緒がある。このバンドの最高傑作。

 この他、42年の前半ごろにボーカルの七福が「ラバウル小唄」をソロで吹き込んだレコード(KA129)が出ている。A面はミノルフォン男声合唱団の「愛馬進軍歌」。えらくよれたボーカルでこの人の個性を感じさせ、ハワイアン流れの若手ムードコーラスグループがハッスルしているような印象を受けるバックの演奏との微妙な緊張感が漂う。個人的にはA面の方がギミックがあったりして出来が良いように感じる。

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