華やかなる名門バンド
ザ・スウィング・ウエスト
The Swing West
アルバム「ジョンガラ・ビート」。やけくそ感満点。
「グループサウンズのエリート」というのがこのバンドのキャッチフレーズ。だけどお世辞にもそのサウンドは洗練されているとはいえず、人気もはっきり言って二線級だった。「ジャズ喫茶ではスパイダースより人気がある」というふれこみもあったが、ホリプロの看板バンドが新興の子会社のバンドに負けるわけにはいかない故の情けないフレーズであるような気がする。しかしこのバンドは職人魂があった。ガレージもインストも歌謡曲もカンツォーネもこなして何でもそれなりに形になるといういかにも昔からあるバンドという感じだった。
僕がこのバンドに注目したのは大学時代に謎のテープを手に入れたことから。そのテープにはこのバンドとリンドのシングル曲が入っていた。それまではカルトGSコレクションでしかこのバンドの曲を聴いたことがなかったがそこに入っていた「君の唇を」「ストップザミュージック」「レッツダンス」「幻の乙女」などどの曲も素晴らしいものでとりわけ「さいはての涙」には感動した。しかもこのテープ「さいはての涙」だけ途中で切れるんである。欲求不満になった。その後インストのCDもでてますます好きになった。今一番好きなバンド。こんなに聞くのに苦労するバンドだったのにいまはシングルスさえ出ている。いい時代だ。
このバンドは、名前の通り、元々は32年3月に結成されたカントリー&ウエスタンのバンド。当初は堀威夫(のちのホリプロ社長)をリーダーとしその後流行にあわせロカビリー、エレキ、GSとスタイルを変遷させてきた。ロカビリー時代は清野太郎や守屋浩のバックバンドとして活躍し、美空ひばりや河野ヨシユキらのレコードでもバックもつとめた。田辺昭知ももとこのバンドのドラムだった。エレキ時代にもオムニバスレコードに参加したりソノシートを残したりした。41年にロカビリー編成(歌手数人とバックバンド)でビクターから「流れ者のギター」でデビュー。直後にGSに再編成され、OBの中村泰治に師事して翌年「恋のジザベル」で再デビューした。が、このレコードは他のバンドのデビュー用にとっておいたものが流れたため急遽お鉢が回ってきたものだったという。企画物を挟んでしばらくビートものをリリースしていたが商業的成功は得られなかった。この間に平行してインストのアルバムを四枚相次いでリリースした。その後バラードに路線変更し「雨のバラード」が関西からヒット。しかしそのあとのシングルは地味な結果に終わった。45年に解散。なお、OBらの力添えもあり、このランクのバンドとしては珍しく43年4月に渋谷公会堂でワンマンリサイタルを開いているが、ここでは前途の希望に充ち、同時に名門故の堅実さも感じさせる演奏を披露しており、非常に心地良い。
ちなみにこうじはるかは植田嘉靖と同一人物。「雨のバラード」は湯原昌幸がセルフカバーしオリコン1位、「そよ風のバラード」はアイ高野(当時はあいたかの)がのちにカバーした。
こういうバラードっぽいバンドはロックファンに評価されないのが非常に淋しい。バラードばかりじゃないのに・・・。
パーソネル(テイチク時代のみ)
植田嘉靖(リード・ギター)43年まで
西口弘孝(ドラムス)
梁瀬トオル(リズムギター/リードギター)
飯田隆二(ベース)
横山博二(オルガン)
湯原昌幸(ボーカル)
坂本隆則(リズムギター)43年から
ディスコグラフィー(41年以降・変色は既CD化)
シングル(全曲CD化済み)
発売日 |
レコード番号 |
タイトル |
作詞 |
作曲 |
編曲 |
オリコン順位 |
備考 |
41.7 |
ビクターSPV74 |
流れ者のギター |
藤川桂介 |
アタナシオ |
近藤進 |
発足前 |
ゆったりとしたウエスタン曲。情景描写に優れてはいるが、時代錯誤の感は否めない。 |
待っててシンディー |
なかにし礼 |
ゼラー |
近藤進 |
ブラスの音も賑やかなロッカビリーの陰を引きずるビックバンド的ウエスタン曲。ご陽気。これはこれで俺はいける。両面ともGSじゃないです。映画の挿入歌のカバーらしい。 |
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42.9.10 |
ユニオンUS545J |
恋のジザベル |
中村泰士 |
中村泰士 |
原田良一 |
発足前 |
はねるリズムを使った情緒に勝る哀愁歌謡の佳曲。湯原昌幸の熱唱が光る。が、元々は他のバンドに予定されていたものでそのバンドのカラオケを使用。糸を結わしている様なギターとホーンが非ロック的。 |
君が好きなんだ |
中村泰士 |
中村泰士 |
原田良一 |
「夕陽が泣いている」をもっと地味にして寂れさしたような曲。せりふ入り。こっちは自演。 |
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42.11.10 |
ユニオンUS553J |
スキーがからだにとっついた |
サトウハチロー |
高毛礼誠 |
|
発足前 |
チャカポコリズムが愛らしい小唄。よく読むと歌詞がかなりイカレポンチ。オルガン主戦のパンクバラード演奏がいとおしい。雑誌「スキージャーナル」の企画もの。 |
こんこんこなゆきこんばんわ |
サトウハチロー |
高毛礼誠 |
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和風サイケの傑作。オルガンと歯切れのいいギターが主戦の幽玄な童歌風パンクバラード。このバンドに限らずテイチクのGSはどいつもこいつも寂れ方が尋常ではない。それが妙味。 |
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43.1.10 |
ユニオンUS562J |
君の唇を |
土井朗 |
中村泰士 |
植田嘉靖 |
ランク外 |
勢いにまかせたビートもの。この曲だったらガレージファンも納得。ファズギターが叫びまくるもこぢんまりとしたマイナーロックチューン。 |
さいはての涙 |
湯原昌幸 |
湯原昌幸 |
植田嘉靖 |
このバンドの最高傑作。引きずるようなファズ、気持ち悪い混声コーラス、やけにすかすかなのにがっちりした演奏、そしてまるで救いの見えない歌詞。ラストに向かってまるでレミングの大群の集団自殺ように盛り上がる。歌謡曲とガレージの幸せな出会い。 |
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43.2.15 |
ユニオンUS568J |
ストップ・ザ・ミュージック |
こうじはるか |
スボトスキー |
植田嘉靖 |
ランク外 |
テンプターズもやったスウェーデン産のGS・オーラとジャングラーズのカバー(といわれているが、オリジナルは同国のレーンとリーキングスの昭和39年のヒット。当時ディックジョーダンによってイギリスでもヒットしたため斉藤チヤ子が既に別の歌詞でレコード化しており、翌年にはクリスモンテスによって再ヒットしている。以上、某所でこの歌についての議論があったようなので補足しました。)。湯原昌幸の情緒に訴えかける熱唱が曲に奥行きを与えている。演奏のほうも負けず劣らずグルーヴ感充分。日本語の詞も泣けてよろしい。 |
心のときめき |
こうじはるか |
伝統曲 |
植田嘉靖 |
オランダのエレキバンド、ウイリーと彼のジャイアンツの大ヒット・インドロック曲の唄入れカバー。(詳しいことは「エレキインスト天国」を読んでください。)これも勢い任せのビートものでファズが効果的なポップス。甲山紀代とは歌詞違い。 |
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43.5.10 |
ユニオンUS579J |
幻の乙女 |
なかにし礼 |
鈴木邦彦 |
鈴木邦彦 |
50位 10.2万枚 |
オーケストラを大胆に導入したバラード路線第一弾。歌謡曲としてみた場合メリハリがやたらに効いていてかなりの出来。情緒に訴えるという点でGSのボーカルの中で湯原昌幸は第一等だと思う。でもB面に押されて全然知られていないのが悲しい。特に詩の出来がむちゃむちゃいい。もともとはワンマン・リサイタル用に作った歌。 |
雨のバラード |
こうじはるか |
植田嘉靖 |
植田嘉靖 |
こちらもメリハリの利いたオーケストレイテッドバラード。GSにしては珍しいほぼ間奏なし。このバンドの最大のヒット。なんと10万枚も売れた。「湯原よりうまい」故・梁瀬トオルが初めてソロをとる。ジャケは二種類あります。(白いほうがファーストプレス。)そぼ降る雨というよりは土砂降りのようなドラムも圧巻。 |
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43.11.1 |
ユニオンUS601J |
涙のひとしずく |
こうじはるか |
植田嘉靖 |
植田嘉靖 |
ランク外 |
タイガースのクラシカル路線を意識した歌。さびで一丸となって熱演するところやピアノのフレーズなどは前作を踏襲している。かなり好印象の歌い上げバラード。 |
渚の乙女 |
かとうひろし |
植田嘉靖 |
植田嘉靖 |
穏やかだが印象薄の欧州系ポップス。タイトルは前作を意識か。すこし時代遅れな曲調で、下手したらこのバンドの中で一番しょうもない曲かも。 |
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44.1.10 |
ユニオンUS611J |
悲しき天使 |
漣健児 |
ラスキン |
|
ランク外 |
もちろんメリー・ホプキンの世界的ヒットのカバー。梁瀬トオルがうたいあげ感動的だが、それよりも何よりも「悲しき天使」の枠を越える歌詞は流石漣健児。 |
ビー・マイ・ベイビー |
スペクター |
グリンウィッチ |
バリー |
アウトキャストのバージョンとどちらが良いか悩むところ。この時期この歌のリバイバルがあったので、ついでにレコード化したものと思われる。軽快な演奏。 |
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44.3 |
ユニオンUS613J |
そよ風のバラード |
こうじはるか |
植田嘉靖 |
植田嘉靖 |
95位 0.2万枚 |
オーケストラを導入しているがこれもスウィングウエストらしい思い切りの良いビート感が素晴らしい。そよ風というよりは「むべ山風を嵐といふらむ」な歌。 |
愛の終わり |
高瀬たかし |
高瀬たかし |
植田嘉靖 |
さっぱり覚えていないほど地味な歌。 |
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44.6 |
ユニオンUS624J |
レッツダンス |
吉田央 |
リー |
西口弘孝 |
ランク外 |
軽快なピアノ・オルガンの重奏とジリジリと焼け付くファズが先導するロックンロールナンバー。ビート感が失せてしまっているのが惜しいところ。少なくともガレージではないと思う。 |
愛の詩 |
東火路志 |
ソフィシ |
大沢保郎 |
オルガンが先導するカンツォーネ。梁瀬トオルの歌の巧さがここぞとばかりに爆発する好ナンバー。 |
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44.9 |
ユニオンUS628J |
孤独 |
湯原昌幸 |
湯原昌幸 |
渋谷毅 |
ランク外 |
こいつは困ったという感じの、まさに行き詰まりをそのまま体現したような歌。湯原昌幸のソロへの布石だったらしい。 |
白銀のバラード |
ふじこうのすけ |
宮内国郎 |
高橋五郎 |
ラストシングルらしい、雪の野の中に消えていくような異常なもの悲しさと浮遊感を持つ歌。最後っ屁にふさわしい哀愁歌謡の傑作。湯原と梁瀬はGS最強のツインボーカルだ。 |
17cmLP
発売日 |
カタログ番号 |
タイトル |
曲目 |
備考 |
? |
ユニオンSUW76J |
おてもやんゴーゴー |
Aおてもやん/五ツ木の子守歌 B鹿児島小原節/ひえつき節 |
エレキ民謡もののアルバムからのチョイス。 |
この他「ジョンガラ・ゴーゴー」からの四曲をピックアップした同名のレコード、「雨のバラード」ヒット時に出したミニベストなどがあるが全て既発音源使用のもののようである。
LP
発売日 |
カタログ番号 |
タイトル |
曲目 |
備考 |
42.12 |
ユニオンUPS1009J |
ジョンガラビート エレキによる日本民謡集 |
Aじょんがら/北海盆歌/会津磐梯山/佐渡おけさ/串本節/木曽節 B鹿児島小原節/真室川音頭/安木節/八木節/日光和楽踊り/郡上節/おてもやん |
度胸だけでやってるとしか思えないエレキ民謡集。どれもはじけた演奏で良いが特に「串本節」と「おてもやん」の出来がよい。後者は囃し方をドラムスだけで押し通してしまっているのが豪気。落ち着き払って始まる「じょんがら」は通好み。 |
43.1.10 |
ユニオンUPS1017J |
よされでゴーゴー |
A津軽よされ節/木更津節/大漁節/稗搗節/花笠踊り/よさこい節/おこさ節 B五木の子守歌/お江戸日本橋/三階節/伊那節/そうらん節/ちゃっきり節/草津節 |
同第二弾。前作よりテンションが落ちた気がするが軽やかな「ちゃっきり節」やずろっとした「お江戸日本橋」など聞き所は結構ある。えらい渋い曲をやっているのが気になる。さすがエレキ帝国テイチク。なおCD化されている曲とされていない曲があるが出来に差はない。 |
43.2 |
ユニオンUPS1024J |
ゴーゴー勧進帳 |
A勧進帳/越後獅子/六段/娘道成寺/吾妻八景/新内流し B元禄花見踊り/松の緑/三十三間堂/春雨/助六/梅にも春 |
今度はエレキによる長唄集。バニーズに負けず劣らずの好演。特に「娘道成寺」「元禄花見踊り」はガレージ度満点。それにしても選曲が渋すぎる。エレキ帝国のテイチクらしい謎のインストディスクになってしまった。当時誰が買ったんだろう。 |
43.5 |
ユニオンUPS1053J |
ステッピン・ア・ゴーゴー |
A花のサンフランシスコ/サニー/オーケイ/マイガール/サマーワイン/好きさ好きさ好きさ Bロック天国/マサチューセッツ/モンキーズのテーマ/ハロー・グッドバイ/デイドリーム/この世界に愛を |
エレキによるヒットソング集。ついにCD化。大胆にファズを導入した曲もあり。一番出来がいいのは「サニー」で、重いところがある他のGS陣のカバーに比べてめちゃくちゃ軽やか。「サマーワイン」は特異極まりないアレンジでこのアルバムのハイライト。後ろの方でファズりまくる「花のサンフランシスコ」「ハロー・グッバイ」「この世界に愛を」がいかにもGSによるインストっぽくてうれしい。 |
44.3 |
ユニオンUPS5205J |
雨のバラード/ザ・スウィング・ウエスト・オン・ステージ |
A雨のバラード/ヘイ・ジュード/恋のジザベル/ビーマイベイビー/ファイヤ/幻の乙女 B涙のひとしずく/ストリート・ファイティングマン/悲しき天使/君の唇を/誓いのフーガ/ストップ・ザ・ミュージック |
大傑作アルバム。私撰GS五大名盤の一つ。両面の始めと終わりの曲に歓声をかぶせた疑似ライブ盤。シングル曲は「ビーマイベイビー」と「悲しき天使」を除いてすべて再吹き込み。この盤の「恋のジザベル」はGS史に残るビートものの傑作。ほかも「雨のバラード」「涙のひとしずく」以外はシングルバージョンより出来がいい。カバーものも他では聞けないような曲が並び、特に「ファイヤ」(アーサーブラウンのほう)は原曲を完全に凌駕するガレージサイケの大傑作。なお、あんまり44年発売という気がせず、42年の末みたいな音の印象がある。LPとして近年復刻されたもののも全然売れなかったというが、それを乗り越えようやくCD化! |
「雨のバラード」「幻の乙女」「涙のひとしずく」「ストップ・ザ・ミュージック」のアルバムバージョンから歓声を抜いたオリジナル・テイク、「雨のバラード」「君の唇を」のアルバムバージョンオリジナルカラオケ、「ファイヤ」のカラオケと「恋の終わり」の初期テイクカラオケ(「恋の傷口」)がCD化されました。また、映画「前科ドス嵐」で披露した「そよ風のバラード」がCD化されています。「雨のバラード」を大胆に取り入れた度肝を抜くアレンジが壷。更に、「エレキギター日本のメロディ」(ST041)という民謡もののカセットによるテープがあるそう。
また、彼らのGS時代の最大のハイライトである神田講堂でのリサイタルの様子を録音したものが残されており、大橋巨泉の司会のほかダーツ、テンプターズなどの豪華ゲストや旧レパートリーの演奏といった特別プログラムが組み入れられているが、これを聞くとガレージ・ビート的感覚の鋭さ及び確かな実力とGSには珍しくオリジナルを大事にしていた節が見受けられ興味深い。湯原昌幸のMCがヴィジュアルの人みたいである。ただし、これを聞くとこの時が人生の絶頂だったであろう麻里圭子に泣けてしまってどうしようもない。なお、レコード化していない湯原作詞作曲の「ハニーのささやき」なるオリジナルも披露されている。個人的には「黒く塗れ」の豪放すぎるカバーも気になる。さらに、解散直前(「最新録音の『孤独』」というMCがある。)の行川アイランドでのショーの録音も残っており、ショーの性質のせいかもしれないがニューロックを完全に放棄し、ポップやカンツォーネに道を見出そうとしていた節が伺われる。(もられすさま、ありがとうございました。)
なお植田ヨシヤスとザ・スイング・ウエスト名義で何枚かのソノシートが出ています。他にもクラシックのインストものの8トラがあるらしい。
41年以前の所謂ロカビリー、エレキ時代の音源もトップバンドだけあって一部はCD化されております。
カバース
「雨のバラード」湯原昌幸、ジャッキー吉川とブルーコメッツ
「ストップ・ザ・ミュージック」湯原昌幸
「そよ風のバラード」アイ高野
「レッツ・ダンス」ゴーグルA