ドメスティックパンキッシュ
ザ・ヴァン・ドッグズ
The Van Dogs
何か非常に作ってるジャケである。第一期メンバー。
ザ・ヴァン・ドッグズというバンドはジェノバ、シェリーズ、バニーズと並ぶ体育会系的凄みを持つバンドである。エレキ歌謡的と言い換えてもいいかな。でもこのバンドの泥臭さというのは尋常でない。それはこのバンド独自の音というレベルまで高められている。
ヴァン・ドッグズの前身は34年に結成されたザ・キャラバンというロカビリー/エレキバンドである。GSになってからの最初のリーダー、岡田朝光はウエスタン〜ロカビリーの歌手として中堅どころだった。つまりこのバンドはまさに前時代からの生き残りバンドだったのである。38年頃には紀本ヨシオやシャープ・ホークスのバックバンドとして活躍していた。その後エレキ化し、インストもののソノシートやオムニバスアルバムを出したり、他の歌手のバッキングを勤めたりした。42年7月に「熱い砂」でテイチク・ユニオンからデビューするにあたってGSブームに対応しそれらしい名前であるヴァンドッグズと変更した。このバンドの特徴はサウンド的にはオルガンの味付けのあるビートバンドということだが、パフォーマンス的にはステージに犬を連れてきて傍らに繋ぎ演奏していたということで有名。二枚のシングルを出したあと42年10月岡田がマネージャーにまわり、メンバーがほぼ全面的に交代した。このとき脱退したメンバーは腕利きバンドとして知られたザ・ギャンブラーズを結成した。このバンドは中堅どころでそこそこ仕事がハードだったからかこの直後犬は死んでしまったらしい。メンバー変更後はだいぶ体育系的なのりは薄れ、アイドルっぽくなったが相変わらず泥臭いサウンドを発揮した。しかし、44年に入ると名前は聞かなくなってしまった。営業のりでヒット曲をそつなくこなす職人っぽいバンドだったという。実際年齢も他のGSより一回りぐらい上の人が多かった。
このバンドはもう一つ凄い売りがある。といっても後世から見ればであるが。初代オルガンの千葉さんという人はある意味日本のどのロッカーよりとんでもないことをやらかした人なのである。あんまりそういうイメージのあるフォークでああいうことをやらかした人というのはいないというのに保守/ノンポリな傾向のあるといわれるGSでこういう人がいるのだから凄い。やっぱりGSというのは日本のロックの黄金時代であった。
パーソネル
岡田朝光 ベース
相田幹男 リードギター、のちブルージーンズ
深川文男 サイドギター
千葉正健 オルガン、のちギャンブラーズ、スパルタクス・ブント
吉野義孝 ドラムス、のちギャンブラーズ
池ひさし ボーカル、のちギャンブラーズ
VAN 犬
久保治美 サイドギター
美川雅弘 ベース
田村マサミ ボーカル
山根ユタカ オルガン
ディスコグラフィー(変色しているのはCD化済み)
シングル
発売日 | カタログ番号 | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | オリコン順位 | 備考 |
42.4.1 | ユニオンUS526J | 熱い砂 | 橋本淳 | 田代久勝 | 発足前 | もともとはスペイスメンのオリジナルインスト曲。とっても土着的に泥臭いビートもの。ちょっともたる演奏が気になるがそれを補ってあまりある訳の分からない高揚感と迫力のあるボーカルとドンドングチャグチャという彼ら独特のリズムがかっこいい。 | |
哀愁のキャラバン | ささきひろと | 岡田朝光 | A面と同じコンセプトのオリジナル曲。中近東を唄っているが出てくる風景は東北っぽい。 | ||||
42.8.1 | ユニオンUS543J | ヘイガール | 池ひさし | M.ドット | 発足前 | ブッカーTとザ・MGズの「グリーンオニオン」に勝手に歌詞をのせて作詞作曲のクレジットを変えたイタリアのイ・リベリというバンドの曲「エヒ・ポイ・・・!」(日本版タイトル「ヘイヘイガール」コロムビアから発売。作詞作曲はイ・リベリのメンバーとのクレジット。)の日本語カバーという複雑もの。このバンドのシングルの中では最もガレージ的な曲。オルガンが先導しファズギターがあおるダンス調の曲。ただ俺はそんなに好きになれないんだよなあ。 | |
天使は眠らない | 橋本淳 | すぎやまこういち | シューベルトの未完成をベースにしたよくできたオーケストレーテッド歌謡曲。GSには珍しく8分の6拍子を使っている。ただ彼ら独特のリズム感は堪能できる。 | ||||
43.2.5 | ユニオンUS565J | 雪国の誓い | 松元幹二 | 新居一芳 | 高原哲 | ランク外 | 寂れに寂れた感傷的なビート歌謡。感動的な盛り上がり方をするなかなかの佳曲。東北の雪に埋もれた寒村のイメージが浮かぶ。後期のヴァンドックスのボーカルは売れない男性アイドルっぽい。 |
熱い涙 | ささきひろと | 原田井二 | 川口真 | A面よりも情緒にまさる歌謡曲。間奏の鋭いファズトーンが懸命でなかなか効果的。コーラスとユニゾンの使い方も旧編成を受け継いだスタイルで納得できる。 | |||
43.7.25 | ユニオンUS594J | 別れのバラ | 万里村ゆき子 | 万里村ゆき子 | 川口真 | ランク外 | 数あるGSの歌謡系バラードの中でも屈指の佳曲。いきなりフリフリリズムが使われて驚くが。この曲もコーラスの使い方が上手い。 |
ロンリー・ナイト | 岡田朝光 | 岡田朝光 | 川口真 | このバンドのイメージとはかけ離れたやさしい感じのソフトロック。 |
17センチLP
発売日 | カタログ番号 | タイトル | 収録曲 | 備考 |
42.7 | ユニオンSUW58 | 恋のハレルヤ | A恋のハレルヤ/バラバラBブルーシャトウ/小さな倖せ | ファーストアルバムのダイジェスト盤。不思議な選曲。 |
42.10 | ユニオンSUW66 | クリスマス・ア・ゴーゴー | Aジングル・ベルズ/サンタクロースがやって来るBホワイト・クリスマス/赤鼻の馴鹿 | モンド的雰囲気の横行するクリスマスソングのインストミニアルバム。セカンドアルバムの「マシュケナダ」によく似た雰囲気の「ジングル・ベルズ」が最もよい出来。あとはそこまで追求するようなものでもないと思います。 |
LP
発売日 | カタログ番号 | タイトル | 収録曲 | 備考 |
42.7 | ユニオンUPS5144J | 走れヴァンドッグス | A熱い砂/孤独の太陽/恋のハレルヤ/ブルー・シャトウ/太陽の道/小さな倖せ B走れヴァン・ドッグス/哀愁のキャラバン/バラ・バラ/虹と共に消えた恋/僕のマリー/ターザンマーチ | インストアルバム。同時期GSの同趣旨のアルバムと比べるとかなり珍しい選曲。CD化希望。とにかくかっこいい。彼ら独特のリズム感、当時からドッグスサウンドと称されて売りだったらしい、が全編にわたって楽しめる。相田の破壊的なリードギターと時折狂ったような迫力のプレイを見せる千葉のオルガンが圧巻。個々見ていくと黛ジュンの「恋のハレルヤ」は完全に原曲を凌駕。特にオルガンによるリフの弾き出し方が素晴らしい。パイオニアーズ「太陽の道」は元がマイナーだが忠実にエレキインスト化していて好感。バンドテーマ「走れヴァンドッグス」は哀愁があってスプートニクス調の欧州のマイナーエレキバンドのようだが間奏でテリーッシュなギターが挿入され日本のバンドの意地が爆発。「哀愁のキャラヴァン」は前奏のアレンジに目から鱗が落ちた。成る程、中東だ。慮るにこれキャラバン時代のテーマソングだったんだろうか。「バラ・バラ」はとてつもないガレージインスト。爆発的なオルガンとそれに喧嘩を売るリードギター、情熱的なビート。完璧。なお、「カルトGSコレクション」の「バラバラ」は解説と異なりセカンドアルバムバージョンなので要注意。ちゃんとこのバージョンが入っていたらこのバンドの評価は一変していたかも。PPM「虹と共に消えた恋」は穏やかなオルガンが禅の境地に連れて行ってくれる癒し系のグッドチューン。タイガース「僕のマリー」は原曲の甘ったるさが微塵もないツイストっぽいビートチューンに。アレンジ次第でこうも印象が変わるのかと驚愕。「ターザンマーチ」は初期ブルージーンズ風の骨太さがグッド。一箇所ファズがかかるオルガンが印象的。 |
42.12 | ユニオンUPS5174J | 花のサンフランシスコ<ポピュラーヒッツ’67> | A花のサンフランシスコ/ラ・ラ・ラ/恋はリズムに乗せて/ヘイガール/知りたくないの/96粒の涙 Bミニミニロック/夢みるトゥイギー/バラ・バラ/好きさ好きさ好きさ/マシュ・ケ・ナダ/ハンキー・パンキー | 一部でかなり評判の高いインストアルバム。祝・完全CD化。聞き物は結局それじゃ「グリーンオニオン」じゃんってな「ヘイ・ガール」。グルーブ感満点。さらにモンド炸裂な「マシュ・ケ・ナダ」「ハンキー・パンキー」もかっこいい。原曲破壊著しい「知りたくないの」、ガレージファン必聴の「96粒の涙」、ワンダーズのアルバムとの関連性著しいビートもの「恋はリズムに乗せて」なども高水準。 |
このほか山ほどソノシートを残している。そのうち「バラバラ」「恋のビート」「アイム・ア・ビリーバー」がCD化済み。「恋のビート」はファズギターをフィーチャーしてオリジナル(ドイツのザ・レインボウズ)を完全に凌駕している。とにかく楽しい。また、別テイク「ヘイ・ガール」(販促用オムニバスレコードテイクらしい)、と未発表曲「ルビーの涙」(歌詞カードでは「涙のルビー」)「渚に帰ろう」がCD化されている。(ちなみにどのボーカル曲より間違いなく出来が良いです。特に「ルビーの涙」は十指に入る名ビートバラード。)この他デビュー一ヶ月前にキングからザ・キャラバンとして紀本ヨシオの「砂に咲く花」のバックを勤めたレコードが出ている。また、キャラバン時代のソノシート音源2曲(「夕陽が泣いている」「青い渚」)がCD化されました。
カバース
熱い砂 ヤング・ビーツ