「GSもいけた」史上最強のモンドコーラスグループ
ザ・ワンダース
THE WONDERS
もしGSブームがなかったとしたらどうなっていたのだろう。
ズーニーヴーの歌った「ひとりの悲しみ」を改変した「また逢う日まで」で見事に新人ながらレコード大賞を受賞した尾崎紀代彦。実は彼は純然たる新人歌手ではなく、それ以前にはこのザ・ワンダースに在籍していた。昨今のカルトGS再発見の中で次第にそれは有名になってきた。しかし、ワンダース本体についてはあまり関心が払われていないように見える。確かに彼らはガレージでもなければ本来そもそもバンドですらなかった為、コアなGSファンにとっても無視されがちな連中となってしまっている。しかし、そういった見方とは別に、先入観なしで聞くとまたそれはそれで味のある楽曲を多く残している。1960年代のポップコーラスグループの一つの頂点ではあった。
ワンダースは42年1月にザ・タボポールズの朝と栗にジミー時田とマウンテンプレイボーイズの尾崎が加わり結成されたコーラスグループ。元デュークエイセスの和田昭治に師事した事から師匠の名前をもじりザ・ワンダーズとした。結成後すぐにテレビの仕事をこなすようになり、同年8月にはなんとアルバム・シングル同時発売でデビューというGSでは唯一の快挙を成し遂げた。とは言っても彼らはあくまでもコーラスグループであるはずであり、事実この結局唯一となるアルバムでもコーラスグループとしての高い能力を見せ付けるものではあった。しかし、折からのGSブームに巻き込まれてGSということにされてしまい、結局流れに応じて売り出され、バンドとして活躍せざるを得なくなった。一時は5人編成のバンドになったこともある。このバンドは番組主題歌やCMソングに借り出されることが多く、その手の音源を数多く残している。また、所属事務所の関係からTBSでの仕事が多かったのは当然としても、割りにNHKでの仕事が多かったこともGSとして異色である。また、同時期仕事によっては「ジ・エコーズ」という名前で吹き込んでおり、この名前で吹き込んだものとしてはみすず児童合唱団と共演した「ウルトラ・セブン」が特に有名である。また、録音にあたっては尾崎の声が他のメンバーと比べ物にならないぐらい通ったため、尾崎だけ後ろに下げて録音をしたという逸話が残っている。普段のステージではどうしてたのだろうか。結局、「霧と恋」が小ヒットしたものの、他には「僕のマリア」が注目されたぐらいで大してかすりもせず、44年に尾崎が脱退すると暫くして壊滅してしまった。解散後の尾崎の活躍等はご存知の通り。
彼らのコーラスは洗練はされていないが妙に力が入った歌いっぷりが、適度な湿り気を感じさせ、中道歌謡によく栄える。また、バックバンドの見せるGS魂に彼らのコーラスがよく反応しており、演奏には参加していないにもかかわらずこの時代を共有したグループでしか出しえない見事なグルーヴを見せる楽曲が意外に多い。要するにソフトロック的なコーラスよりもドタバタしたいわゆるGS的なコーラスの方に近いのだ。また、悲惨さすら感じさせる格調の高い悲劇的なバラードから箍の外れたコミックソングまでまったく違和感なくこなせる潜在的な能力は流石だ。昨今の和ものブームでもあまり評価されていないグループなので、敢えてグルーヴ感の強いグループとして推してみたい。なおリードボーカルを尾崎がとる楽曲は思うほど多くない。
パーソネル
尾崎紀世彦 ボーカル/ギター(もと・ジミー時田とマウンテンプレイボーイズ)
朝紘一 ボーカル/ギター/ベース(もと・ザ・タボポールズ)
栗敏夫 ボーカル/ギター/ドラム(もと・ザ・タボポールズ)
ディスコグラフィー(変色しているのはCD化済み)
シングル
発売日 | レコード番号 | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | オリコン順位/枚数 | 備考 |
42.8.1 | ユニオンUS541J | 明日への道 | 和田昭治 | 和田昭治 | 発足前 | アコギをフィーチャーしたイントロで始まるハンキーパンキーといった趣の歯切れのよいアップテンポの歌。オルガンがGS情緒を満足させるが、とにかく前面に出ようとする歌い上げコーラスがあまりにも前向きな歌詞と相俟って印象に残る。 | |
遠い思い出 | 和田昭治 | 和田昭治 | 歌詞の通りトランペットをフィーチャーしたノスタルジックでまったりとした歌い上げバラード。軍歌の「ポーランド懐古」になぜか似ている。 | ||||
42.10.1 | ユニオンUS547J | 霧と恋 | 橋本淳 | すぎやまこういち | 発足前 | 極端にオーケストレーテッドされたスローテンポの幻想的な歌い上げバラード。まさに霧に包まれたようなサウンドメイクは脱帽以外ない。ただし、あまりに洋楽的なコーラスが裏目に出てしまっていてサンダースよるインストバージョンには及ばぬ出来なのが残念。彼らの最大のヒット。 | |
悲しくて | 和田昭治 | 和田昭治 | のりのよい一気に畳み掛けるアップテンポの哀愁歌謡。パーカッションが心地よい。弾けた編曲には妙な明るさがあり、諦観と未練が入り混じる浮遊感のある歌詞を浮かび上がらせる。バーズを意識したイントロのエフェクトのかかった12弦ギターと思われる音が印象的。 | ||||
43.3 | ユニオンUS569J | 赤い花びら | 橋本淳 | 筒美京平 | ランク外 | 史上最強の歌謡曲。歌謡曲の真髄。文句を付ける所など一点もない完璧な楽曲。ドコドコ唸る極めてビートの強いドラム、巻き上がるストリングス、絡みつくチェンバロ、跳ねるギター、壺を付き捲るボーカル/コーラス、情緒に勝る熱っぽい歌詞。何もかもが素晴らしい。クーガーズ「こころの恋人」と並ぶGSによる純歌謡の大傑作。この曲の良さがわからない人間は一生真の歌謡曲に近づくことすら出来ないと断言できる、傑作中の傑作。 | |
愛して行こう | 岩谷時子 | いずみたく | ちょっと聞いただけでわかる典型的ないずみたくメロディーだが、埋め草というほどではないものの、特にどうということもない押しの弱いバラード。 | ||||
43.4 | ユニオンUS576J | マサチューセッツ | なかにし礼 | ギブ兄弟 | ランク外 | ビージーズの日本語カバーだがやや重苦しさがある程度でだからどうしたという出来の小品。 | |
ロック天国 | 朝紘一 | ストゥーキー/メイソン/ディクソン | 元楽曲の割りには妙にのりのいいPPMの日本語カバー。正直そんなにたいした出来ではないがワンダーズ時代としては貴重な尾崎の気っ風のいいソロが聞ける。 | ||||
43.5 | ユニオンUS580J | キャプテン・スカーレット | 見尾田瑞穂 | グレイ | ランク外 | 主人公が不死身という設定の、というか主人公が何度も無駄に殺される今から思うととんでもない設定だった英国製人形劇の英国版主題歌の日本語カバー。ティンパニがアクセントとしてよく効いた、いかにも番組主題歌な楽曲だが、水を得た魚のように活きのいい歌唱が聞けて満足。掛け声もはつらつ。 | |
とべよ!エンゼル | 吉田央 | 筒美京平 | 同、日本版主題歌。筒美京平作曲のマカロニ系スペーシーロック。コーラスからは清潔な印象を受ける。それはいいのだがその手のコンピの「キャプテンスカーレット」の主題歌は児童合唱団のものが使われているのだが、どういう使い分けをしていたのか情報希望。 | ||||
43.7 | ユニオンUS595J | 僕のマリア | 奥成達 | 和田昭治 | ランク外 | ベースとパーカッションを中心としたイントロから始まって叫び声とスキャットが割り込んでくる、意外にグルーヴのある演奏にのって気持ちよく歌われるコミックソング。 | |
ワン・モアー・チャンス | 朝紘一 | 和田昭治 | 「ヤッターマンのうた」そっくりなイントロで始まるよく出来たR&B歌謡。憂いを含んだポップス的な観点から見た場合のこのバンドの最高傑作。これも熱っぽいコーラスが聞きものだが、わりに演奏が冷静すぎる印象あり。 | ||||
43.8 | ユニオンUS596J | グリーン・ベレー | 漣健児/なかはらひろと | バリーサドラー軍曹/ムーア | ランク外 | 映画主題歌として「悲しき戦場」をカバーしたものだがケンサンダースとかがかなり前にカバー盤を出したりしていたのでタイミングとしてはあまりよくないような気がする。一応プロとして標準以上の仕事はしているが散漫な印象もうける。それにしてもワンダースの後期のリリース速度は速すぎる。 | |
ハトの来ない朝 | みおたみずほ | 和田昭治 | 死を歌い上げる沈鬱な楽曲だが、曲調もあってブルコメの「雨の朝の少女」がなんとなく思い浮かぶ。ただし、どうも今ひとつ爪が甘いためあまり切迫していないように感じる。 |
17cmLP
発売日 | カタログ番号 | タイトル | 収録曲 | 備考 |
43.4 | ユニオンSUW89 | 太陽の仲間たち | A愛の指輪/花のサンフランシスコ Bマサチューセッツ/ロック天国 | 全曲英語のままで歌った4曲入り17cmLP盤。ということで当然B面の曲はシングルとは別テイク。(演奏は同じ。)しかしながら中身は特にどうというようなものでもない。 |
LP
発売日 | カタログ番号 | タイトル | 収録曲 | 備考 |
42.8 | ユニオンUPS5154J | ニューカマー・ザ・ワンダース | Aダンス天国/孤独の太陽/口笛天国/恋はリズムに乗せて/恋のビート/モア B恋のコンチェルト/ジョージー・ガール/ラ・バンバ/井戸端の女/ミスター・タンブリン・マン/天使のハンマー | 結構異色な楽曲も多い全曲カバーで固めたデビューアルバム。ただしストレートに英語で歌っているものは少ない。日本語若しくは日本語英語ちゃんぽんで歌っているものが多いのだが、これらはどうも間が抜けていて、非常に萎えてしまう。何だかのりがよくないのだ。そんな中「恋のコンチェルト」だけは例外的にしっかりと足に地がついた楽曲になっており、流石ここでは貫禄十分。ということで聞き物は完全に英語で歌われる楽曲で、数々あるGSによるカバーものとしてもかなりいい部類に入る「恋はリズムに乗せて」とえらくソウルフルな「井戸端の女」が聞き物。なお、その「恋はリズムに・・・」と「ミスタータンブリンマン」にはヴァンドッグズらしきエレキコンボがバックをつけているので、彼らが好きな人なんているかどうか知らないが、彼らのファンは必聴のこと。 |
この他LPの一部の曲や17cmLP全曲を収録したからの8トラカセット「ロック天国」(TBSサービス EPV1044)があり、そこに独自に収録された「オーケイ!」「マシュケナダ」がCD化されている。このカセットは12曲入りだが10曲入りの4トラカートリッジもあるらしい。また、解散間近になって企画もの用に採られながらそのまま未発表になっていた「白いブランコ」「風」もCDになっている。また、時代劇やアニメの関係ではワンダースとしてはばくはつ五郎から「ばくはつ五郎」、「涙はともだち」、妖術武芸帳から「誠之介武芸帳」、黒い編笠から「孤独の夕陽」などがCDになっている。「孤独の夕陽」は曲調はともかく音はGS的。他にシンガーズ・スリーと共演したコカコーラのCMソングがCD化されている。また、別名のジ・エコーズとして巨人の星から「友情の虹」、ウルトラセブンから「ウルトラセブンの歌」「ULTRA7」などがCD化されている。また、バックコーラスをつけた作品も散見され、三浦恭子「恋の数え唄」などはCD化されている。