失神〜軍歌からフュージョンまで

オックス

OX

GSの全てを体現する男たち。


 オックスといえばGSの全盛期に現れ、GSを崩壊させたバンドとして評判が悪い。しかし本当にその評価はあっているのだろうか。そうは思えない。むしろ彼らはGSブームを半年延ばしたバンドなのではないか。まあ、逆に言えばニューロックの全盛を半年遅らせた原因ともいえるが。彼らがいなかったとしてもGSは既に奇形化してきていたし、ニューロックやソフトロックの台頭は起こっただろうし、タイガース、テンプターズ、カーナビーツの自壊はあっただろうし、モップスやダイナマイツは渋いままだったろうし、ブルコメの歌謡化もあっただろう。彼らはたまたまそういう曲がり角の時期に最後に空いた席に座ったに過ぎない。むしろ彼らがいなかったらオリーヴやアップルあたりがデビューできたか疑問だ。蝋燭が消える瞬間の明るさ、それを彩ったのがオックスであったのに過ぎない。むしろあと一歩早いか遅いかして世に出てくればあそこまでビッグネームになれなかったとしても、過激派バンドとして、一定の地位を築けたかも知れない。

 オックスは42年9月にキングスを脱退した福井利男と岩田裕二が大阪に帰り、酒場の経営者清水芳夫の手を借りて同年12月に結成したバンドであり、同時に早くもジャズ喫茶「ナンバ一番」に出演をしだしている。当初にメンバーの出入りがあったものの、翌年の1月にはメンバーが固まった。地元での人気も上々で、スプートニクスの前座を勤めたあと、GAP(のちホリプロ)にスカウトされ上京した。この頃にはステージ上で喧嘩をしたり楽器を壊すパフォーマンスをしており、のちに代名詞になる「失神」も既にやっていた。テレビ出演やジャズ喫茶出演を経験したのち43年5月にビクターの“GS潰し政策の尖兵”として筒美京平作品「ガールフレンド」でデビューした。オルガンの赤松愛の中性的な魅力が人気の原動力となっていたが、さらに他に野口ヒデト、岡田志郎というアイドルの素養に溢れたフロント陣がいたことで一気にタイガース、テンプターズに次ぐ第3の人気バンドとして認知された。しかし同時にその過激なステージングが教育委員会などの「エレキ追放」の格好の目標となり、特に「失神」は社会問題になってしまった。そのため以後シングルでは激しい曲をやらなくなった(ライブではやってた)。そのような制約をうけながらも「ダンシングセブンティーン」、「スワンの涙」と立て続けにビッグヒットを叩き出し人気はますます高まっていった。しかし人気絶頂の44年5月に赤松愛が芸能界に飽き「ジョンレノンの弟子になる」といって脱退。(実際にはいろいろとあったらしいが、ともかく赤松ははるばるロンドンのアップルのオフィスまで出向き、しばらくの間ぶらぶらしたものの、結局夢果たせず帰国した。)代わりに田浦ユキが後釜として入ったがイメージチェンジのためかド歌謡曲路線になり人気は一気に下降した。46年5月に解散。しかしこのバンドが凄いのはこれからで、野口は演歌歌手に、田浦は俳優として「突撃ヒューマン」等に出、そして福井と岡田はピープルに参加した。このピープルは、ローズマリー等と名前やメンバー、編成を変えながら50年代までGSスタイルで存続していた。なお、ネオGSにバーヴ安田とニューオックスというバンドがいるが、このバンドとは一切無関係とのこと。

 このバンドはライブのレパートリーが渋くてフーの「マイ・ジェネレーション」やスライのナンバーなんかをやっていた。一方で童謡や軍歌もやってたので他のバンドから白い目で見られていた。日本一喧嘩の強いバンドとしても有名で和田アキ子がこのバンドのボディーガードのようなことをしていたという。一番喧嘩っ早かったのは赤松愛らしいが。

 このバンドは本格的にロックを志向している人にとっては鬼っ子でしかないが芸能としてGSを見ている人間にとってはまさに最強のバンドといえる。こんなカルトなバンドが平気でトップに君臨していたというのはやっぱり異常な時代だったとしかいいようがない。ちなみにこのページが銀色なのはオックスがデビュー当時「シルバーオックス」という下着のメーカーにタイアップを頼みに行って断られたという故事に由来しています。(というか、その下着の名前からオックスにしたらしい。てっきりフーの曲からだと思っていたが。)


パーソネル

野口ヒデト ボーカル(現・真木ひでと)

福井利男 ベース、ボーカル(元・キングス、のち・ローズマリー)

岩田裕二 ドラムス(元・キングス)

岡田志郎 リードギター、ボーカル(のち、ローズマリー)

赤松 愛 オルガン、ボーカル・44年5月まで

田浦ユキ オルガン・ボーカル・44年5月から(現・夏夕介)


ディスコグラフィー(変色しているのはCD化済み)

シングル

発売日

カタログ番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位

備考

43.5.5

ビクターVP8

ガール・フレンド

橋本淳

筒美京平

利根常昭

6位

30.6万枚

 ソフトロック調の甘くメルヘンチックで穏やかな歌謡曲。貴公子然としたフルートで始まり最後に感極まって終わる完璧な構成。鮮烈きわまる歌詞が素晴らしい。少女とオックスを繋ぐ密やかな信頼。

花の指環

橋本淳

筒美京平

利根常昭

 本人たちだけの演奏だが印象薄。

43.9.5

ビクターVP13

ダンシング・セブンティーン

橋本淳

筒美京平

利根常昭

28位

9.7万枚

 躍動感溢れる和製R&Bの大傑作。ホーンの使い方が本場物っぽい。のりだけを重視したなんだかよくわからない詩も素晴らしい。

僕のハートをどうぞ

橋本淳

筒美京平

利根常昭

 これもあまり印象に残らないバラード。赤松愛主唱。

43.12.10

ビクターVP15

スワンの涙

橋本淳

筒美京平

筒美京平

7位

25.6万枚

 悲しみを湛えた歌謡曲。セリフが恥ずかしいが、唄い上げのバラードの佳作。野口ヒデトの声質はこういう唄にこそ相応しい。

オックス・クライ

橋本淳

筒美京平

筒美京平

 こっちはファンの嬌声と生きのいいホーンを導入した前作を思わせるのりのいいダンスチューン。熱烈きわまるこのバンドの最高傑作。

44.3.25

ビクターVP16

僕は燃えてる

橋本淳

筒美京平

筒美京平

18位

8.7万枚

 劇的な演出を施した歌謡曲でハード路線とソフト路線の両方の面を持つ。完成度が高い。

夜明けのオックス

橋本淳

筒美京平

筒美京平

 練り混みの足りないフラワー調のポップス。

44.6.25

ビクターVP19

ロザリオは永遠に

橋本淳

筒美京平

筒美京平

32位

6.6万枚

 赤松愛のいなくなったオックスはひと味違うぜということで目先を変えたシングル。で、出てきたのはこんな地味なぬめっとした歌謡曲。ファン大量離脱の引き金になった。

真夏のフラメンコ

橋本淳

筒美京平

筒美京平

 情熱溢れる起承転結のはっきりした起伏に富んだ歌謡フラメンコの大傑作。いかにも橋本淳な歌詞もすばらしい。カスタネットの総攻撃がいい味。営業戦略的にはこっちをA面にするべきだった。

44.10.10

ビクターVP21

神にそむいて

なかにし礼

鈴木邦彦

渋谷毅

41位

2.7万枚

 穏やかな歌謡曲であるが「スワンの涙」あたりとは違いアイドルソング的色彩が廃されている。ややフラワーが入っている。

夜明けの光

なかにし礼

鈴木邦彦

渋谷毅

 埋め草以外の何者でもない歌謡曲。

45.2.5

ビクターVP22

許してくれ

あぼくみこ

中村泰士

渋谷毅

64位

0.9万枚

 悲壮感溢れる感情むき出しムード歌謡の傑作。なかなか凝った作りの曲でメリハリが利いていて心地よい。「オービーバー」を泥臭い歌謡曲にしたような歌。

ジャスト・ア・リトル・ラブ

西川ひとみ

中村泰士

渋谷毅

 アイドル系のソフトロック。さびがシャープ・ファイブの「孤独な少女」に似ている。もっとコーラスが複雑に絡めばそれだけの評価がされたかも知れない。

45.5.5

ビクターVP23

僕をあげます

阿久悠

佐々木勉

馬飼野俊一

91位

0.5万枚

 暗くて地味なムードコーラス。穏やかだが売れる要素が全くないのが難。詩があざとすぎる。

花の時間

阿久悠

佐々木勉

馬飼野俊一

 チェンバロで始まるクラシカル歌謡曲。珍しく間奏でギターソロが挿入され、驚く。(GSというギターバンドブームの中心バンドなのにこれは異常だ。)さびのメロディーが変でよい。

45.12.5

ビクターVP24

もうどうにもならない

多木比佐夫

淡の圭一

淡の圭一

ランク外

 あんまりにも絶望が過ぎて突き抜けそうなムード歌謡。さびで野口ヒデトが熱唱するところがなかなかかっこいいが最後にフェイドアウトにかぶさる「さようなら」というセリフがラストシングルということもあり情緒に訴えること甚だしい。

ふりむきもしないで

多木比佐夫

利根常昭

利根常昭

 まるで布施明か鶴田浩二かという大仰なイントロで始まるライトで一世代古い歌謡曲。最後のストリングスは「風が泣いている」や「悲しみは駆け足でやって来る」を思わせる。

不明

 

ひとりの電話

橋本淳

筒美京平

筒美京平

ランク外

 当時電電公社のPR盤として作られた非売シングル盤(ソノシートもあった)のB面。(A面・「お世話になりますダイヤルさん」佐良直美)まぼろしの名曲といわれていたが、大したことのない曲。赤松愛の魅力を堪能する以外に使い道がない。

アルバム

発売日

カタログ番号

タイトル

収録曲

備考

43.12.5

ビクターSJX501

オックス・ファースト・アルバム

Aガール・フレンド/花の指環/待ちくたびれた日曜日/風の噂/実らぬ恋/夜をぶっとばせ Bダンシング・セブンティーン/僕のハートをどうぞ/オー・ビーバー/涙にくれた瞳/サイモン・セッズ/ホリディ

 なかなか評価しづらいアルバム。シングル曲・オリジナル曲・カバー曲それぞれ4曲づつ。オリジナル曲は清水芳夫/福井利男作品が多いがややあか抜けない。カバー曲は全て日本語訳。ド演歌な「実らぬ恋」の次にフィードバック音からはいるロック的な「夜をぶっとばせ」が並んでいるのがとってもオックス的。曲目だけ見るとアルバム的にはソフトロックを目指そうとしていたのか。

44.3.25

ビクターSJX502

テルミー/オックス・オンステージNo.1

Aスワンの涙/オックス・クライ/ハロー・アイ・ラブ・ユー/ひとりぼっちの世界/オール・マイ・ラビング/ガール・フレンド/ベイビー・カムバック/ジョニー・ビィ・グッド Bサニー/雪が降る/出船/わらべ歌メドレー:とうりゃんせ〜母さんの歌〜子守歌/ドント・プレイ・ザット・ソングス/テル・ミー

 ジャイアンツの「可愛いスーちゃん」と並ぶGS屈指のモンドアルバム。だがこちらは演奏の熱気がストレートに伝わってくるGS屈指の名盤でもある。シングル以上にワイルドな「オックスクライ」、八方破れな「ジョニー・ビィ・グッド」、のりのりな「オールマイラビング」、場内大合唱が胸にしみいる「ガール・フレンド」と聴きごたえ充分。しかし、B面に入るや「サニー」から唐突に「雪が降る」になだれ込み、続いて「出船」「わらべ歌メドレー」と続く謎の日本情緒路線が聞く物を唖然とさせる。(実はライブを音盤にするにあたって失神者を出さないようにするための冷却材だったらしい。でも今にも失神しそうな勢い。)最後の「テル・ミー」に至っては不発弾とはいえやがて消えていってしまうオックス自身の行く末を暗示しているようで・・・。

ほかに「オールスター・フェスティバル/吉田正傑作選」(44年8月、ビクターSJX19)で橋幸夫のカバー「恋をするなら」を披露している。最初の二枚のシングルを集めた「ビバ!オックス」という17センチLPもあったと思う。他に映画サントラ音源からバンド演奏だけの「ガールフレンド」と黛ジュンのバックをつけた「ホワイトルーム」がCD化されている。後者はオルガンみたいな音色のファズが強烈だがどうしようもなくスカスカでいくらなんでも荒すぎな演奏。他に「ジェラルディン」や「オービーバー」などを披露している当時のライヴ音源が残されているが、これがまさにこのバンドの熱狂ぶりを伝えており、涙が出てくるほど凄まじい。更に「もうどうにもならない」を徹底的に押し捲る最末期のライヴ音源も今に伝わっているが、ここに至ってもいい意味でオックスらしさが全く失われていない演奏が素晴らしい。オリジナルは「もうどうにもならない」(やたら速い)だけだが、当時の最新の洋楽ヒットなどを手掛けていて何のかんのと言っても聞きやすい。(もられすさま有難うございました。)


カバース

「ガールフレンド」ザ・キッパーズ、筒美京平とフェザートーン

「スワンの涙」ジャッキー吉川とブルーコメッツ、ジュディ・オング、ザ・ジョーカーズ、ジミー竹内とジ・エキサイターズ

「オックス・クライ」ルルーズ・マーブル

「ダンシング・セブンティーン」弘田三枝子、モーニング娘。他


参考リンク

失神バンド オックスのすべて(ファンページ)

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