わびさびガレージ・イン・武道館

ザ・ルビーズ

The Rubies


とは言え、代表曲といえばこれだしな。


 最近でこそ新人歌手が武道館でコンサートを行っても別にそれ程の話題になることはないだろうが、初めてここでロックの演奏を行ったビートルズの時の騒ぎは諸文献にあるとおり、とてつもない喧騒と安保の練習と囁かれるほど大変な警備を伴ったものとなり、武道館はある意味音楽の殿堂となった。その後ロビー和田とニューフォークスがライブを行ったりはしていたものの、やはり、グループ・サウンズ時代のハイライトの一つであるザ・タイガースによる武道館ライヴというものはその面に於いて外すわけにはいかない。そんな武道館の舞台を踏んだ数少ないGSの一つがこのルビーズだ。もっとも、そのザ・タイガースの前座としての出演だったが。

 このバンドは、昭和41年2月に結成され、一時横須賀のクラブに専属出演していたが、メンバー変更を経て、昭和42年4月にポリドールの洋楽番号帯からのデビューにこぎ着けた。ポリドールとしてはタイガースに次ぐGSであった。デビュー当時としては珍しい左利きのギタリスト・菊谷の存在もあったが、今ではデビューにあたってレコードに券をつけて抽選で指輪につけていたルビーをプレゼントするというキャンペーンの方が有名になっている、というか、そんな宝石のついた指輪をはめたまま演奏していたという方に驚く人が多い。また、全員芸名に「二」がつくという細かい設定も作られた。しかし、ポリドール直営という弱小事務所に所属していたこともあって、あまり仕事に恵まれたとは言えず、電波媒体では「ポリドールアワー」にたまに出てくるといった程度であった。結局、ポリドールのタイガース以外への冷淡なあたりもあってシングル二枚は地味なままに終わってしまった。その後メンバーの大幅チェンジがあったが、結局事態は変わらなかった。なお、この時に脱退したベースの水木はデビュー前にこのバンドを脱退した新井靖夫とともにあのザ・レンジャーズの誕生〜運営に大きな影響を持つことになるのだが、それはそちら参照のこと。このあとどういう訳か大原麗子の唯一のシングルにコーラス部隊として駆り出されることになるが、これは現在でこそ評価が高いが、当時は別に何の影響も与えなかった。そして昭和43年3月にキングスとともに問題の「タイガース新曲発表会」の前座を勤めたが、それ以後はレコードはついぞ出ることはなかった。なおこのバンドには後期に某BというGSと対バンしたときのエピソードが伝わっている。Bの某の神業的ギタープレイを客が聴かず、ミック、ミックと叫びまくったため、キレた某が「ミックって誰だ」と袖にいたルビーズにくってかかったらしい。もっとも、あとでそのバンドのメンバーがフォローを入れたとのことだが。

 このバンドの特色は、特に前期に顕著だが、同じポリドールのキングスと共に、余りにも侘しいサウンドが絶品のパンクバラードの域に達しているという点であろう。虚無感にまで昇華した驚異の哀愁サウンドはしみったれたガレージとして、また若者の無垢で果てしない絶望をよく表した退廃的で呟くような青春歌謡として完成されている。当時の聴衆にそれは届かなかったが。


パーソネル

菊谷 英二 リード・ギター のち、平田隆夫とセルスターズ

沢田 謙二 オルガン

水木 城二 ベース(二枚目まで) のち、ザ・レンジャーズのマネージャー

林 清二 サイド・ギター(二枚目まで)

谷崎 純二 ドラムス(二枚目まで)

 

ミック 立川 ベース 現・立川直樹=音楽評論家、音楽プロデューサー(ラストシングルのみ)

山川 わたる サイド・ギター(ラストシングルのみ)

わたなべ 文雄 ドラムス(ラストシングルのみ)


パーソネル(変色しているのはCD化済み)

シングル

発売日

レコード番号

タイトル

作詞

作曲

編曲

オリコン順位/枚数

備考

42.4.5

ポリドールSDP2003

さよなら、ナタリー

なかにし礼

橋場清

 

発足前

 淡く幻想的な哀愁歌謡。エッジの鋭いオーケストレーションと貧乏くさい演奏がピュアな魂を揺さぶる快心の楽曲。詞もこれ以上ない悲しみを湛えている。曲調や詞以外にもリズムの取り方などでサウンズあたりとの類似性があり、この点でも北欧を意識したと思われる。この点は、商業的にはともかく、成功している。

ゆるしておくれ

橋本淳

黛洋介

中島安敏 

 こちらは元気なオーケストラに希望が燃える、フォークロックを下敷きにしたさわやかなポップス。ワイルドワンズやビーチボーイズに通じる、陽性の「海辺のバンド」の音。コーラスの使い方が印象的。(matsさま、有難うございました。)

42.9

ポリドールSDP2008

渚のルビー

黛洋介

黛洋介

宮崎光男

発足前

 パンクバラードの大快作。チープなオルガンと哀愁の淡くうだつの上がらないコーラスが落涙を誘う。こぢんまりとした方のガレージ情緒を満足させるビートを刻むドンドコドラムや無垢なギターのコード弾き、その音の隙間まで全てに哀愁を感じさせるこのバンドの最高傑作。

青い瞳のエミー

田村ケイ

中島安敏

中島安敏

 フルートが露払いするもの悲しいローティーン・ポップス。孤独な少女との強く結ばれながらも淡くはかなく消え去った初恋にもならぬ幼き日の想い出を切なく、それでいながらビートに乗せて歌い上げる、GSにしか表現できない佳曲。田村ケイとは信楽順の変名。

43.2.5

ポリドールSDP2017

恋のピストル

槙昌也

橋場清

 

ランク外

 作為的で面白みに欠ける似非というより偽ガレージ歌謡。ガレージ感覚が全くない人間にガレージ的演奏を無理矢理させるとどうなるかという悪い見本。メンバーが吹き込みに行ったらもう出来ていたという沢田駿吾の気乗りの薄い演奏のカラオケに、メンバーが何とかせにゃと思ったのか必死に明るく振る舞った歌唱が絡む。が、起死回生の望みは絶たる。詞が派手なので人気があるが、自分の感覚としては、この曲を変に面白がるような気持ちは更々起きない。

あなたに抱かれて死にたい

信楽順

信楽順

 

 情念どろどろな詞とえらくさわやかな曲に齟齬がありすぎるポップス。こっちの方が出来がいい。ムード歌謡と言うにはあまりに灰汁がなく、健康的。近年某歌手がステージレパートリーとしていることでも有名。なお、「日本ロック紀」等で記されている作詞作曲のクレジットは誤記なので注意。(matsさま、howlさま、アメ順さま、有難うございました。)

 この他、「夜霧のガイコツ今晩は」がCD化されている。これはもともとタイガースのデビュー曲に予定されていたコミックソングであり、余りの曲だということでタイガースに拒否されまわってきたものだが、結局発売されず、カレッジフォークのカッペーズに廻って発売され、カッペーズの代表曲となった。ルビーズのものは「カルトGSコレクション・ポリドール編」で日の目を見た。なお、同盤に収録された田村エミ「赤い星、青い星」は演奏者不明ながら、確かに「青い瞳のエミー」によく似たサウンドメイクが施されているので、このバンドが演奏している可能性がある。(菊谷氏によれば、これはバックをつけたものではなくたまたま機材が似ていたからこういう話しが立ったのではないかとのこと。)また、前述の通り何故かビクター専属の大原麗子「ピーコックベイビー」にコーラスだけで参加しているが、一ヶ所入りを間違えたまま商品化されてしまっている。名曲の玉に瑕を付けた形となっているが、その声のあまりの軽薄さは昭和元禄を象徴しており、永遠に聞き続けられていくことだろう。

「恋のピストル」「赤い星青い星」についてはハタヤンさまのページを参考にしました。ありがとうございました。

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