これ買いました平成19年11月

19.11.24 破産、破産の大破産。

西田佐知子

歌謡大全集

5CD ユニバーサル UPCY9096−100

シングル曲とカバー曲を取り纏めた簡素な五枚組ボックス。ヒットした曲は「アカシアの雨がやむとき」や「赤坂の夜は更けゆく」のようなブルージーなものが多く、実際この手の曲もはまっているのだが、それはそういうことも出来るということであって、本領は「恋に二日酔い」などのコミック味や「あの人に逢ったら」といったようなビートもののような曲で寧ろ発揮されている。年代順にシングル曲が並べられたあと、歌謡曲のカバー、ポップスやラテンのカバーがまとめられているが、特にラテンのカバーを聞いた後でもう一度シングル曲を聞きなおすと歌唱の発想がどこにあって何をどうしたいと思ってそうしたのかが透けて見えてくるのでなかなか面白い。前田武彦らに囲まれての1000万枚突破記念の座談会を収録したフォノシート音源が収録されているが、人柄が垣間見られ貴重。

浜口庫之助

メモリアルコレクション100

4CD キング KICS6260/3

異能の作詞家・作曲家・歌手である浜口庫之助の作品集。20曲が初CD化とあるが、本当かしら。真偽はさて置き、この人の作るメロディーはまさにエバーグリーンというにふさわしい。とりわけ沢田駿吾らと組んだボサノバ風の楽曲は歌謡の宝石とでも名付けたい。この手の楽曲はディスク2に集中している。詩も涙に咽ぶ紅顔の美少年からステテコをはいたおっさんまでその様相は縦横無尽で得体が知れないが、とりわけ純たる詞の心に沁み込むところこの上ない。初期にはバンドマンだった経歴を生かして編曲も手掛けているが、何と言っても紅白出場を成し遂げた歌手としての才能が素晴らしい。雅ならず、鋭からずだが、洒脱で戦前の岸井明あたりの系譜を引いている。スリー・キャッツの「黄色いさくらんぼ」で始まり、みのもんたの「夜の虫」で終わる(ただしテレビ主題歌やCMソングがこのあとに続く。)年代順に代表的楽曲を集めたものだが、守屋浩の「有難や節」、伊東きよ子「花と小父さん」、にしきのあきら「空に太陽がある限り」などはもちろん、奇曲として有名な水原弘の「へんな女」や島倉千代子の「今日も初恋」、グルーヴものとして近年再評価著しいクラウディア・ラロの「愛のカローラ」や本人の「ドライヴィング・ラヴ」なども含まれている。もっとも、もっととんでもない千代恵の「ウンガチョコ先生」や渚まゆみ(奥さん)の「ミスター天狗」などは含まれておらず、非常にバランスが良い選曲といえるか。初めて聞いた曲では水原弘の「愛の渚」がやや重いもののGS時代らしい見事なエレキサウンドでこの時代の東芝音工のセンスの鋭さも偲べる。奥さん監修。

岡本敦郎

名唱集

CD コロムビア COCA71153

現存する歌手の中では既に貴重な昭和20年代デビュー組であり、藤山一郎から歌の上手い歌手の一人として上げられている、端正な歌い方に特徴のある大歌手のベスト。以前のベストを買い逃していただけに有難い。ベストとはいえ懐メロブームの46年に出されたベスト盤の復刻で資料価値も高い。伊藤久男の「熱砂の誓い(建設の歌)」に感銘を受けて歌手を目指したというが、その割にはタイプが違い、伊藤は豪放磊落、繊細な歌でもやや力づくでまとめるのに対し、この人はリリカルにまとめたりソフトに丸めたりして、どちらかといえば藤山一郎に近い。

斯様な丁寧で耳障りまろやかかつ音大出でクラシックの素養に裏打ちされた快活で健全なラジオ歌謡というジャンルが戦後の一時期まで生き残ったのはこの人の力によるところが大きい。本人はもっと流行歌的なものを目指したかったらしいが、運命とは面白いことである。この当時で300曲のレコーディングがあったということだが、これはこの人の名前の大きさからすると意外に少なくてびっくりした。まだ現役なのでこのペースなら今なら500曲ぐらいは録音しているのだろうか。

日本初のサイケソング「人工衛星空を飛ぶ」が収録されていないのは惜しいが、大ヒット曲や主だった曲はほぼこれで聞ける。「登山電車で」は同様の趣旨の「フニクリフニクラ」を下敷きにした曲になっていてなかなかなんとも言いがたい味がある曲だ。

 こういう明朗快活な、所謂楷書で歌うような歌い方をする歌手の活躍する場はいまや殆ど失われてしまっているが、何卒世に再び脚光を浴びて歌謡曲の勢力の一部分を担ってほしいものだ。

青木光一

想い出のアルバム

CD コロムビア COCA71154

戦前以来の正統的な歌謡曲をついで郷愁溢れる曲を次々と発表した大歌手のベスト。これも買い逃していただけに有難い。前半がその昔出したアルバムの復刻になっている。この人も明朗快活な歌い方をするが、郷愁もので大きな当りをとったのが証左か、もうちょっと人の体を大きく抱擁する、ぬめっとした、いわば行書な歌い方をする人と言えば良いのか、あまり他に例のない歌い方をする人であります。郷愁を感じるのに、井沢八郎や千昌夫の様な露骨な田舎臭もせず、要は都会人の持つダンディズムで描く田舎の風景を提示するという、食い詰めたのではなく立志の為に都会に出て一角の成功を収めた人の回顧として田舎を思うという、こういう表現が出来るのは洗練しすぎても野暮すぎてもいないこの人の独壇場なのであります。他の人が歌うと粗野に流れてしまいそうな「元気でね、さようなら」を絶妙な都会的な感覚で滑らせるのはまさにこの人の声質をちゃんと知り尽くした上でやらせている作家陣の深い見識と共に、この人自体の持つ表現力の豊かさを感じさせるのであります。なお、彼が発表したものの売れずに埋もれてしまったが、瀬戸内海の漁師の間で伝承され続けたという「船は三〇〇噸」は確かに作業歌として優れており、後に何人もにカバーされた、というのも納得。「青春パソドブル」のように都会的一辺倒な歌でもなかなか面の整ったところにまとめられるのが確認できてなかなか面白かった。しかし、一方で雄大さに欠け、陰性でもないので、長く中堅歌手扱いされていたことにも、春日・三橋・村田トリオらに比べるとどうにも取り上げにくいということも理解できる。

津々井まり

愛すれど心さびしく+5

CD ウルトラヴァイヴ CDSOL1191

自分はお色気ものを低く見るが、この人の歌唱は文句なく凄い。偶然に「人魚の恋」を聞いて以来なんとしても全部聞いてみたかったが、ここにこうして実現したわけで非常に嬉しい。この人の歌唱は女優式でぶっきらぼうなところがあるけれども、素晴らしいのは吐息の混ぜ方の上手さで、ふと接ぐところで漏れる息が聴く者をぞくぞくとさせる。例えば應蘭芳辺りがこの手の歌唱の第一人者ということになっているけれども、ああいう過激に過ぎる不自然さがなく、曲の邪魔になっておらない。息の入れ込み方やボーカルの潰れている部分の扱い等が全く芸道に適っている。これぞやさぐれ歌謡。ビッチに非ず。

これは46年に出た唯一のアルバムとこれに未収録だったシングル曲、オムニバス参加曲を加えたコンプリート盤で、「さすらいのギター」や「希望」といったカバーも収録されている。BMGビクターの全盛期の勢いがあるか、見事な編曲が多い。世間では「悪なあなた」がグルーヴものとして人気を集めているが、個人的には見事なブラスをフィーチャーしたイントロからぐっと引き込まれる「別れてあげる」が絶品だと思う。

どうでもいいがこのグルーヴものという考え方が曲者で、今のネオ歌謡歌手/バンドが一つとしてまともに大成しない(というかまともな歌手/バンドがいない)一番の原因だと思う。歌謡歌手はまず歌を歌うものでなければならない。

南陽子

噂の天使

CD ウルトラヴァイヴ CDSOL1192

この人のことは名前ぐらいで全然知らなかったが気になったので購入。上で述べた通り、全般的に草創から5、6年ぐらいのBMGビクターの歌手は面白いものが多いが、これもその一員。南沙織に似た人ということでその路線かと思ったが、全然違ってえらく骨太なサウンドだったので驚いた。唯一のアルバムの復刻。アクショングラマーものは歌謡としても聞けるものとそうでないものが混交しているので、人の評価を聞いても全く参考にならず。とにかく聞いてみないと何とも言えない。この人は歌謡よりならず。特に記すことなし。

19.11.16 破産。

ザ・タイガース、ザ・スパイダース、ザ・テンプターズほか

東宝GSエイジコレクション

6DVD 東宝 TDV17293D(−1〜6)

東宝制作のGS映画5本と特典盤1本のボックスセット。スパイダースの「にっぽん親不孝時代」だけはみたことがなかったがこれで果たせた。どうにもみなトーンが暗い話ばかりだ。これをもし松竹が作っていたらカラッとした話になったのだろうなと夢想する。東宝は会社のカラーが日本の土着的なものに近く、グループサウンドという異国情緒や荒唐無稽さを前面に押し出す音楽ジャンルを生かしておらないように感じる。特にタイガースの三本の映画のうち二本、テンプの映画で主役GSたちを高校生やスターとしての日常に疲れた本人として描いており、等身大ないし身近な一人間として扱われておる。「華やかなる招待」はビートルズの映画にも通じるところのある脚本なのだが、湿っぽくてどろどろした日本的なものに結びついて爽快感に欠ける。本来荒唐無稽な少年院に収監される場面などはもっと馬鹿馬鹿しくすればいいのに、これも今ひとつ食い足りない。もっともこのシーンの最大の失策はどう見てもケンサンダースの方が目立っていることだと思うが。松竹の映画でもヴィレッジが大学生や本人として描かれているが、こちらは日常的な事象を扱っておらず、もと不良の学生が更生したとか、人物の描写に厚みがあるように思われる。この東宝の映画群というのは単に人気GSを使いましたという以上のものがないように思われるのである。もちろん動くGSが見られるという価値はかけがいがないとは思うが。

映画として一番面白いのは「にっぽん親不孝時代」だと思う。ただし、スパイダースの面々の役どころとしてはしっくりいっていないようにも思える。もっと若くて不良臭のあるバンドでやった方が役に周辺事情が取り込めたのでは。時期的には難しいが例えばオックスとか。日活のスパイダース映画が本人役であったのに対してここでは役名も全く本人たちと関係のないものになっていて異色。これは日活の四本と見比べてみるのが面白い。
 どうでもいいがプログラムピクチュア故のいい加減さなのか、どうもどれも脚本が甘い。特に「ハーイ!ロンドン」は時間を貰っている最中の設定に矛盾があって気になって仕方ない。オチも安易だ。藤田まことが頑張っているのに可哀想だ。「世界はボクらを待っている」もあの筋だと飛行船が墜落した時にドラムを叩いているのはピーじゃないのでは。まあいいけど。テンプも折角の超能力の設定なのに使い方がせせこましすぎる。他の会社に作らせてタイガースに対抗させた方が全員に利があったのでは。

他に久美かおりはタイガースの映画で全てヒロインを演じているが、これは大変だっただろうなと改めて同情してしまった。倫敦ロケでのお召し物がモダンである。ピンキーとフェラスの映像も貴重だが日本人しか有難味がわからなそうな映像。

特典盤には「太陽のあいつ」からケロヨン、ジャニーズ、加山雄三、スパイダースがそれぞれゲストに出た回と映画編から歌唱シーンを抜き出したもの、タイガースの森本太郎と中井マネージャーへのインタビューを収録。タイガースの思い出等を披露。目新しい話はあまりないが、こういうものが映像として残るということに意義がある。「太陽のあいつ」はいかにも東宝らしいクラシックなつくりの雑誌記者がらみのコメディーだが、こっちの方が荒唐無稽なのは荒唐無稽だし特にスパイダースの回なんかは混乱しているが総じて脚本がいい。

ザ・スパイダース、ヤング&フレッシュ、松原智恵子ほか

ビバ!ザ・スパイダース・ムービー・コレクション

5DVD 日活 DVN1022(−1〜5)

日活制作のスパイダース主演映画4本のDVD化。数年前ビデオ化したときに買い逃したのでありがたい。改めて通してみると、スパイダースというバンドの勢いがそのまま映画の出来に反映しているようだ。最も古い「ゴーゴー向こう見ず大作戦」は「風が泣いている」あたりまでの上潮の勢いがそのまま出ている。どれも映画の筋としては取り立てて何とか言うようなところもなく、荒唐無稽な冒険活劇が多いが、「ゴーゴー向こう見ず大作戦」は、ストーリー上の細かい不整合などもあるが、馬鹿馬鹿しさに満ちておって、コメディとしての青春映画として見せ場もあって、今でも十分に楽しめる。松原智恵子の輝くばかりの美しさも惚れ惚れとする。スパイダースのバンドイメージにもよく合っている。その後の三作は立て続けに突貫作業で作られたらしく、こと「大進撃」の予告編を見ると全く本編で使われる映像がなく、「向こう見ず」での映像だけで構成されておったりする。映画としては次の「大進撃」もまあ面白い。真理アンヌが贔屓なのもあるが、いずれにしても何も考えずにスパイダースを見るという目的で見れば見所も多い。このあとは43年に一年で三本の主演映画というのは頻繁だし、スパイダースのGSとしての勢いの失速もあり粗製濫造のやっつけ感が漂う。「大騒動」は「なればいい」の妄想シーンが有名だが、「○○○」という放送禁止用語が頻出してテレビ地上波ではなかなか放送するのも難しかろう。話も空疎だ。「バリ島・・・」はケチャダンスの映像などがあって風俗の記録として貴重だが、映画としてはどうにも見せ場の少ない盛り上がりに欠ける作品。これは契約の都合で作られたものか。ただし、いずれにしても動くスパイダースが見られるのは貴重。各盤ともデータと予告編、特報が付録として収録されている。ただし、特報はないものもある。特典盤では四作からスパイダース(とヴィレッジシンガーズ)の歌唱演奏シーンのほか、今回のために録り下ろした松原智恵子と齋藤武市監督の対談、真理アンヌへのインタビューを収録している。後者二つはスパイダースのボックスセットの付録としての範疇を越える内容。

ミドリカワ書房

みんなのうた2

CD+DVD 桜桃社 OUTO003〜004

この人は自分よりも随分年下だがしっかりと自分の歌というものをもっている。今のままで大きなヒットを飛ばすということはおそらくないとは思うが、それはそれとして歌謡曲としてあるべきところにちゃんと到達していて後世にまでその名を伝えることだろう。この境地に到達する関東のGSや歌謡曲を標榜するバンドや歌手が全くいないのが悲しくてたまらない。さて、曲は玉石混交だが、所謂普通の視点の曲はさほど特筆するところもないが、「恍惚の人」のように誰も今までその視点で曲を作る人がいなかったような曲ではやはりこういうテーマで来るか、という衝撃が大きい。さすが某所で「「曲目や歌手がわからないけどいい歌」の曲目や歌手を教えてほしい」というという話題で最もリクエストが多かった歌手である。一曲一曲をみると、本来こうしたかったのだろうという編曲の意図が分かるだけに、あともう少しバックにお金がつぎ込むことが出来たらという悔しさが滲んでいるのが見受けられる。特に目玉曲の「OH!Gメン」はもっとちゃんとしたマカロニウエスタン用のオーケストラを用意してちゃんと緻密に編曲してやればもっと衝撃度が上がるのにな、とかと思ってしまった。軍歌に「空の勇士」という曲があるけれども、それと同じで曲の最初と最後で同じ編曲をするとちぐはぐになるような曲が多いと思うのでもうちょっと編曲には頑張って欲しかった。あと曲の繋ぎで劇団ひとりによるショートコントが入っているけれども、はっきり言ってこれは要らなかった。微妙に曲とリンクしておらないし、何より曲から曲へ行くテンポが乱れる。付属のDVDでは非常にテンポがよいだけになんとも惜しい。曲のクウォリティーの割りに歌手や楽曲名が知られておらないことや、CDの構成があまりにもおかしいところを見るとプロデュースの仕方に問題があると言わざるを得ないので、今後どうなるのか見守る。編曲の話ばかりしてきたが、「日本以外全部沈没」の主題歌になった「遺言」のイントロの編曲が昔の「日本沈没」の主題歌(桑原一郎のやつ)の編曲を踏襲していてちょっと面白かった。

V.A.

サマー・ビーチ・パーティー

CD バレッセサラバンデ 3020667422

63年から65年にかけてアメリカで大量に作られたサーフパーティーもの映画の主題歌・挿入歌を集めたもの。特に「ビーチパーティー」という映画と「ビキニ・ビーチ」という映画からはやや多めに選曲されているほか複数曲選曲されている映画も多い。ビーチボーイズ、アストロノウツ、ナンシー・シナトラ、ディック・デイル、キングスメンほかが採られており、選曲としては渋く、特にこの手の映画で水着要員として活躍したドナ・ローレンによる主題歌は初音盤化なども含まれている。この人は、初めて聞いたがなかなか時代にあった楽曲が多く、青山ミチとか弘田三枝子辺りと比べても謙遜のないパワーがある歌唱をしておって甚だ気になる。インスト、歌ものが入り混じって収録されており、自分はこの手のサーフものに目がないから多少甘いのかもしれないが、心安んじて聞けた。リバーブのかけ方やリズムの取り方がロックっぽくないのがこの辺りの曲が好きな原因なのであろう。特に素晴らしいのはピラミッズ(近年同名のバンドがいるが、これはスキンヘッドで売ったカリフォルニアのオリジナル・サーフ・バンド。)の「ビキニ・ドラッグ」がその題名に恥じぬドラッギーかつスリリングで軽快という見事なサーフ・サウンドで、快活なギターブンブン唸るベース、途中でリードを奪うサックス、叩きまくるドラムの相乗効果が楽しい。やはりそのジャンルの音楽が天然で流行っている時分の楽曲というものは侮れない。ちなみにジャケットは某有名アルバムの意匠を取って本歌取りの趣があるのであります。

19.11.4 ものを買わないと調子が悪いが、ない袖は振れぬ。

スリー・キャッツ

スリー・キャッツのセクシィ・ムード

CD コロムビア COCA71145

「黄色いさくらんぼ」で当時の女性コーラスグループブームにお色気路線で悠然と殴りこんだ女傑のアルバム二枚を取りまとめたもの。あくまでも実力のあるコーラスグループが(まあ「黄色いさくらんぼ」のために作ったグループではあるが、みな前歴のある歌手を集めたもので実力派といってよかろう。)お色気ものに活路を見出したというのりであって、生半可なコーラスに留まっているわけではない。お色気路線といえば即芸者歌手という観念があったようで、第1集の編曲には神楽坂はん子のカバーを二曲もやっているが、その中でも芸者ワルツはリズムをとるパートを入れたりして当時としては異例の力を入れた編曲具合。第2集では由緒正しい元祖ネェ小唄「忘れちゃいやよ」をカバー。貫く棒のようなものが見える。オリジナル曲では桃色、ピンクをタイトルに加えた曲も多く、それ以外もお色気路線が続くが、まあかなりのどかなものである。蓋し昭和40年代は現在に繋がっているが、30年代は繋がっていないことの証左か。ぼちぼち。

沢知美

人の気も知らないで

CD コロムビア COCA71146

これもセクシー路線で売った60年代の末頃の人で本業はモデル。これはアルバムに主要シングルを加えたもの、咽びかえるような色気は思ったよりもないものの、歌唱技術はなかなか高く、手堅い。発表当時流行していたボサノバ路線の曲も多いが、どちらかと言えば清楚な歌で、それが憂いに結びつきなかなかはまっている。オリジナル曲がいかにもアルバムに入っている曲というような感じでキャッチーさに欠けるのが、この人が今ひとつ歌手としては燃焼し切れなかったことを象徴しているかのようだ。ボーナストラックのシングル曲もどうにも売れ線とは言いがたい曲が多いが、「罪ある女」は別格。歌の出だしが「私のからだの中を赤い血が流れて行く」で、こういう全く当たり前のことを改めて提示して、ふっと聞き手の注意を向けさせてしまう阿久悠の言葉の計算高さがよく感じられる格好の見本となっている。思えば核となる作家が一人付き、どういう色で攻めるか絞れば、本人の強いキャラクターと結びつけてヒットにつなげることが出来たかもしれないが、そういうことを言っても詮無い。

レ・カプチーノ

フレンチ・マジソン

CD マッドフレンチ MADF1009

自分が関東のバンドで唯一有職故実面から評価しているのはボウディーズだが、関西にはオリオンズと彼らがいる。彼らは神戸でやっている良いモッド・インストのバンドで、海外ではCDやレコードを出しているが、国内では全く各社に無視されておって、音楽業界の耳は節穴かと怒りを感じていたが、これは七年も前にリリースされていた全国流通のCDで、嬉しいけれども、ここから何の進展もないのかと唖然とする次第。もっとも、このCDではあまりにあっさりと流されておってジャズ系モッド特有の粘着具合が殆どなく、流麗な演奏という以上の印象が薄い。それでも、ライヴではこの三倍ぐらいいい演奏をしていたので、これからバーンと売れて欲しいグループ。どうも全国流通インディーズのクラスのバンドは折角ライヴでいい演奏をしているのに、CDだとどうもスカスカしたりそのジャンルの情緒を醸しだしていなかったりするような結果になることが多いのはどういう訳なんだろう。

寺内タケシとブルージーンズ

歌のないエレキ歌謡曲VOL.2

2LP キング KR7057/8

所謂第二次ブルージーンズのうちでも最も充実していた時期にリリースされた彼らの看板シリーズ第二弾。「花嫁」「ざんげの値打ちもない」「ナオミの夢」などのヒット曲に混じり、彼らのリリースした「明日へ行く汽車」「レッツ・ゴー・ジャンジャン」という壮絶な歌入りナンバーのインストバージョンがとして収録されている。桐生のキーボードがニューロックの音をしていて時代を偲べ、かつ寺内タケシのギターもこのあと急速にテリーッシュな弾き方を放棄していくことになるものの、ここではまだ一部でらしいフレーズが散見される。出来がいいのは「花嫁」と「ナオミの夢」の二曲でこれは充実するブルージーンズを見せ付ける演奏の張りがあるが、全体的にはどうにも煮え切らないトラックが多い。とりわけ彼ら自身のオリジナル曲二曲も壮絶な歌入りのシングルバージョンに比べて何とも大人しいものに留まっている。ブルージーンズは70年以降も轄目すべき作品が多いが、その中心となりどうしても目立つこのシリーズの全般にバンドの真実を伝える部分が少なかったのは何とも忸怩たる思いだ。尤もこれはブルージーンズにというよりも流行の曲の方に原因があるのかもしれない。「花のメルヘン」の冒頭の語りにはこのバンドらしいコミカルな感覚があるが。

峰しろう

ひとり旅

EP キング NCS1386

両面共に普通の三連符演歌で可も不可もなし。ジャケは只者ならぬ雰囲気があるが、特に書くこともない。B面はさらにティピカルな演歌でボーカルの低音部分の不安定さが気になって困る。

原トシハルとBアンドB7

悲しみは星影と共に

EP ビクター SV502

フォークとGSとラテンとムードコーラスをあっちに行ったりこっちに行ったりした人たちの同名番組の主題歌。ガットギターと物悲しいストリングスで始まるロシア民謡風のマイナー歌謡で歌い方もそれ風。アレンジには「禁じられた遊び」が念頭にあるかもしれない。B面はブロードサイドフォー、ブルコメと競作の「星に祈りを」。他の二組に比べるとテンポが速く譜割が違う部分があるが、感触はブルコメのほうに近い。編曲は猪俣公章だが演歌風でなく映画音楽風のアレンジで、この人の出自に思いをしみじみとはせた。

キタヤマ・オ・サム

雨よふらないで

EP 東芝 EP1177

もとフォークル北山のソロ第二弾。テンプターズとは別曲。オルガンを強調した雨音入りのフレンチポップス風の小品だが、段々ボーカルが水没していくというネタが肝になっている。B面は結婚をテーマに「○年目、愛してるわ」の繰り返しだけで、その言い方で新婚の頃はあつあつだが段々おざなりになっていくということを表したコミックソング。どちらも旧フォークル直系の作品。

 

19.11.3 明治節。

ザ・ヴィーナス

シングルス

2CD 徳間 TKCK72534

昭和50年代にオールディーズ風の曲を発表して人気を博したディスコ系バンドの全シングルの両面を収録したもの。初期は全盛期のヴォーカルのコニーとは別の女性デュオが入っておって、その構成からか後期ブルーコメッツの最初の辺りの末期(判りにくいが要するに「ロスト・ラブ」とかあの辺りを歌っていた頃)のサウンドに似ている。ディスコブームの頃のハコバンの演奏というものはこういうものであっただろうということをよく偲べる。花はないが、出来は良い。ディスク1の最後の四曲からが今このバンド名を聞いて連想されるオールディーズ風味の曲調となり、ボーカルもコニー一人になる。ブルコメが滅んでチェッカーズが出てくるまでの間のバンドでサックスをここまでうまく使って上手く売れたというのはないから、普遍化は出来ないが、こういうものが求められていたのだろう。後半はまるでGSやパラキンの歴史を追体験しているかのようにのりのいいポップス路線からするするとマイナーなじっとりした歌謡曲へ路線が変っていくのが見られて80年代までのロック/ポップはGSの子孫という言葉がよくよくかみ締められる。確かに大ヒットを狙えそうな歌は「キッスは目にして!」ぐらいしかないが、それを度外視すればそこそこヒットしそうな非常にポップな歌が多く「キサス・デ・キサス」あたりも歌謡曲としてみるとラテン的なレキントギターなど非常に凝った作りになっていてなかなか情緒深い。

ギョガンレンズ

シミー・ジミー・シェイキング

CD キング KICS832

先日惜しくも解散した和製ガレージ屈指の名バンドのオリジナル盤。どうもこのバンドの荒々しさ、疾走感が他のバンドと違うが、感覚の世界の話であるので何とも言いようがない。とりあえずこのバンドがカバー曲をやると必ずオリジナルを上回る出来になるので、そういうバンドは宜しいに決まっておる。

ここでは全7曲のうち大半はオリジナルであって、どれも激烈であり、彼ららしいサウンドに仕上がっているが、それに劣らぬ出来でスモーキーロビンソンの曲が一曲入っていて、カバーの大名人の実力が味わえるのであります。全体としてはぼちぼち。

ギョガンレンズ

キング・バイブレーション

CD キング KICS889

同上。荒々しい英語詩のガレージロックナンバーを延々と並べた最後に穏やかなフォークナンバー「CHAIN GANG BLUES」で締めくくるので統一感があるが、その直前の「NO NO NO」が断然にポップな感触のある歌なのでその落差が激しく、並べ方繋ぎ方が非常に宜しく印象に残る。尤も、全体的にやや丸いか。

前の月 次の月 最新

inserted by FC2 system